時代錯誤の好戦者-4
「だいたいなぁ、俺たちが駆除する事件の八割は、人災なんだよ」
エメリナを押し倒した男から、皮肉気な声が振り落ちた。
「人が原因?」
「そうだ。逃げたり捨てられたりしたペット魔獣や、魔物を使った犯罪。数年前のゾンビテロ事件は、有名だろ?あれの首謀者たちは人間だぜ」
「でも、先生は……」
「ああ、人間の皮を被った知恵のある魔獣なんか、まさに最悪だな。いつ本性を出して暴れ回るか……流石は特A級の災厄種だ」
「っ!!先生を化物扱いしないで!」
渾身の力でもがいたが、押さえつけられた身体はピクリとも動かせない。
「そう怒らないで、俺の話を最後までちゃんと聞けよ。お前にとっても、きっと悪い話じゃない」
口はしに余裕の笑みを浮かべ、ジークは楽しくてたまらないようにエメリナを眺める。
「うちのお偉方はな、隊長が人狼の疑いを訴えても、とっくに滅んだと聞く耳もたなかった。
だが、もし見つけたら、研究所で生きたまま寸刻みに解剖だとよ」
残虐極まりない言葉に、エメリナは震え上がる。
「そ、そんなこと、絶対……」
「させたくないだろ?そこで、俺とお前の利害一致だ」
「利害……?」
「ああ。俺は北国最強の災厄種って奴と、戦いたいんだよ。
せっかくの獲物を、みすみす他にかっ攫われるのは御免だ。
だから俺は、ここに来たことも、お前らの事も、誰にも言ってない」
窓の外はもうすっかり夜闇になり、大きな満月が、大都市では信じられないほど輝いていた。
暗くなった室内で、窓から差し込む月光が、ジークの顔を青白く照らす。
「お前に頼みたいのは、人狼を記念公園の結界広場へ呼び出す役だ。あそこなら、どれだけ派手にやり合っても邪魔が入らない」
子どもへ言い聞かせるように、ジークはゆっくりと告げる。
「俺と本気の殺し合いをして、アイツが勝てばそのまま人間面して暮らせばいい。俺が勝っても、お前は逃がしてやるよ。いい条件だろう?」
「こ……殺し合う?ど、どうして、そんな意味のないこと……」
目の前にいる人型をした生き物が理解できず、エメリナは呻いた。
平凡で退屈な毎日に刺激を求めるように、エメリナだってゲームの世界で過激な戦闘を楽しむ。
けれどそれは、あくまで仮想の世界であり、現実には血の一滴すら流さない。
この王都に暮らす人のほとんどが、同じだろう。
毎日学校や職場に行って、仕事や勉強の合間に遊んだり……楽しいことばっかりじゃないけど、そこそこにやり過ごす。
この時代、この都市では、そのぬるい日常こそが標準になったはずだ。
その中で、意味のない命の奪い合いをするなんて……時代錯誤にも程がある!
「意味?そんなもん必要ねぇだろ。」
満月の光の中、ジークの瞳が凶暴な金色を帯びた気がした。
「俺はただ、飛び切りたぎる極上の殺し合いが欲しいだけだ」