悪戯―いたずら―-9
いくらか時間が過ぎた午後、紗耶香はようやく拘束から解かれて、息も絶え絶えにソファーにしがみついていた。
人妻というブランドを肌にまとったまま、ペイズリー柄のエプロンで胸と太ももを隠すその姿に、島袋はただただエデンを見ていた。
「もうこんな時間か……」
島袋が時計を見ると、午後の2時半を過ぎたところだった。すなわち、凌辱が2時間以上にも及んだことを意味している。
しかし、尊い時間を費やした分だけ、紗耶香から還元してもらったものがある。
「今日のところはこれで帰ることにしましょう。バイブは奥さんに差し上げます。大切に使ってくださいね」
紗耶香には言い返す気力も残っていなかった。収納スペースの多いマイホームだ。ラブグッズを隠す場所ならいくらでもある。
ただひとつ、自分の中に芽生えつつある浮気な感情を隠す収納スペースは、この家にはないような気がした。
夫の健吾には勘の鋭いところがある。
でも、私なら大丈夫──。
根拠のないあやふやな自信が、寿命を迎えた蛍光灯のように紗耶香の中で弱々しく点滅していた。
紗耶香にだって今日の予定はあった。それらをキャンセルした上で、これからいろいろなことを整理しなくちゃいけない。
熱いシャワーを浴びて、妻の顔を取り戻すこと──それが第一優先になってくるだろう。
「奥さんのおかげで、私も長生きできそうですよ」
とくに次回の約束を交わすでもなく、小綺麗な自治会長は笑い声とともに野村家から出て行った。