悪戯―いたずら―-2
「どうやら私の荷物がお宅に配達されたようなのですが、身に覚えのないものが届いたりしてませんかね?」
あっ、と紗耶香は呼吸を詰まらせた。そばの壁に寄りかかり、やっぱりそういうことだったんだと表情を曇らせる。
「それを引き取らせて欲しいのですが、よろしいですかな?」
敬語で接してくる島袋のことを警戒するが、ここはひとつ穏やかに済ませたほうが無難だと紗耶香は思った。
真新しい玄関のドアがゆっくりと開かれる。そこにあるシルエットが徐々に陽向(ひなた)へ出てくると、温室で育った花のような人妻の輪郭がくっきりと浮かび上がる。
いつになく物静かな雰囲気がたまらない。
「ごきげんよう。今日の奥さんも素敵ですね」
歯の浮くような台詞を平然と言ってのける島袋。
「手短にお願いします……」
紗耶香は視線を下げたまま体を引いて、微妙な距離でちょこんと立ち尽くす。
自分好みの相手に対しては遠慮を知らない島袋である。家に上がるなり来客用のスリッパを跨いで、掃除の行き届いたフローリングをわしわしと踏みしめていく。
それを見て落ち込む紗耶香。あとで除菌スプレーを吹きかけておこうと密かに思った。
「荷物はどこですかな?」
島袋に急かされた紗耶香が、のれんをくぐるような会釈をしながら姿を消す。
そうして戻ったときには両手で荷物を抱えていた。
「私の名前が書いてあったので、箱を開けてしまったんです……」
「中身を見た、と?」
「どうして私の名前なんかが……」
「それは向こうの手違いですよ。それとも、この私が悪ふざけでやったことだと言いたいんですか?」
それしか考えられないと紗耶香は思っていたが、感情的になったところで何の解決にもならないだろうと、無言で箱を差し出した。
沈黙が長引くと、あのときの情事の光景が二人の脳裏をかすめていく。
「先日は奥さんにひどいことをしてしまって、すみませんでしたね」
嫌なことを思い出させる島袋の台詞に、
「まだ家事が残ってますので、これでお引き取りください……」
「そうはいきません」
「もうこれ以上、私につきまとわないでください……」
「よその家の荷物を勝手に開けておいて、それはないでしょう、奥さん?」
しだいに窮地に追い込まれていく若妻。島袋とおなじ空気を吸っているだけで、鼻や喉が詰まるような不快感をおぼえる。
要するに、まんまと罠にはめられたのだ。