姦通―かんつう―-3
「妊娠したくなかったら大人しくしていなさい」
島袋の眼光が重圧を放ってくる。紗耶香が顔を左右に振っても、その視線の気配からは逃れることができない。
目尻に涙が滲む。不幸な妊娠なんてしたくない。
とても適う相手ではないとあきらめかけて、紗耶香は手足の力をふっと抜いた。
見上げた先に、メガネをはずした島袋慶次のおそろしい面相(めんそう)があった。
気を抜けばすぐにでもレイプしてきそうなその雰囲気に、今一度、起き上がる努力をしてみるけれど、紗耶香の肢体は大の字のまま動かない。
「乱暴なことは、やめてください……」
ブラジャーをさらしたまま紗耶香は訴えた。
「それならば、私の言うことを聞くかね?」
島袋の問いかけに答える代わりに、紗耶香は悔しい顔をした。その目が島袋の右腕へと移る。
やはりというべきか、包帯を巻いた彼の右腕は負傷した様子もなく、紗耶香の左手をしっかりと押さえ込んでいる。
島袋は何重にも嘘をつくっておいたのだ。
「奥さんのおかげで、腕の痛みもすっかりなくなったよ」
それじゃあ遠慮なく、新鮮な人妻の体をいただくとするかな──。
いきなり島袋の顔が迫ってきたので、紗耶香は目をぎゅっとして反対側へ顔を逸らせた。
隙だらけの首すじに島袋が吸いつく。たまっていた欲求をそこへぶつけるように、顎からの輪郭をべろべろと舐めて、耳の穴に息を吹きかける。
「いやっ……」
紗耶香はぞくっと身震いした。
「奥さんの体は感じやすくできているようだね」
熟れた果物を思わせる舌触りに感動をおぼえる島袋。
わざと音をたててキスをするのも、女の体が焦らされて目覚めていくことを知っているからである。
前戯に時間をかければかけるほど、女の泉からはいやらしいものが湧き出てくるのだと心得ている。
「んんっ、んんっ……」
島袋の唇が紗耶香の唇をむさぼりにやって来たのだ。
「いやっ、ふむんっ……」
触れてはいけない部分が触れてしまった瞬間の、吐き気をおぼえる味覚といったら、腐った果実そのものだった。
無理矢理にこじ開けられた口の中へ、島袋の舌が乱暴に入ってくる。
それはくねくねとうごめきながら唾液を注ぎ、紗耶香の舌と絡まって、なおさら本能を剥き出しにしておそってくる。
野蛮なディープキスに咳き込んだりしても、島袋の顔が離れる気配はない。
はぐ、はぐ、と口紅やファンデーションを舐め取られると、島袋のことが泥棒のように見えてくるのだった。
そうして最後にはこの体も泥棒されるのだと、紗耶香はさらに気分を落としていく。