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人妻苑―ひとづまのその―
【若奥さん 官能小説】

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姦通―かんつう―-11

『昼間に撮った奥さんの写真を眺めながら、二人だけの濃密な時間を思い出していたよ。部屋中に奥さんの匂いがぷんぷんしている。私だって、そちらの家庭をこわす気はないのだよ。今後の奥さんの態度しだいではどうなるかわからないけどね。また会える日を楽しみにしているよ』

 デリカシーのかけらもない島袋からの卑猥なメッセージである。紗耶香はすぐに削除した。
 メールアドレスの交換を持ちかけられたときに、もっと強い気持ちで拒否すればよかったんだと、後悔してもしょうがないことを悔やんだ。

「さっぱりしたあ」

 シャワーを浴びて着替えてきた健吾は、テーブルに鶏肉の唐揚げを見つけると、行儀が悪いのをわかっていてわざと手づかみで口へ放り込む。

「うまっ」

 正直な感想がしぜんにこぼれる。

「ちょっぴり衣をアレンジしたんだ」

 ようやく振り向くことができた紗耶香は、普段通りの振る舞いを心がけて得意げに微笑んだ。
 たくさん食べてくれる人がいるというのがあたりまえの幸せなんだと、結婚してからつくづくそう思う。

「風呂場にこれが落ちてたよ」

 なんでもないふうに健吾が差し出した手のひらに、洋服のボタンが乗っている。

「それって……」

 紗耶香は思わず表情をこわばらせた。それは今朝、島袋の家で慶次にブラウスを脱がされたときにちぎれた、あのボタンだった。
 ブラウスの破けた部分を隠しながらなんとか自宅へ戻り、夫にばれぬようすぐに処分したつもりでいた。
 ミュールも棄てたし、体中に染み付いた精液もシャワーでくり返し洗い流したのだ。
 他人の精液を家に持ち帰るという許されない行為に泣きながら、すべてが泡となって消えてくれることを願った。

「ところでさ」

 今度はちゃんと箸で唐揚げを持ち上げて、健吾が別の話題を切り出した。

「自治会の役員会議はどうだった?」

 瞬間、ぎくっとする紗耶香。

「ああ、あれね……」

 声に動揺が絡んでしまう。ほんとうのことをしゃべるわけにはいかない。

「そうだ、たしか……、資源ゴミの出し方の話とか……、あとは町内の秋祭りのこととか……、大体そんな感じだったよ」

 マカロニサラダのつづきをやりつつ、適当なことをぺろっと言った。

「会議なんて、紗耶香には退屈なだけだったろう?」

「まあね」

「だけど自治会長さんもいい人みたいだし、この町も住みやすいし、ここに家を建てて正解だったよ」

「そう……だよね」

 夫に話を合わせる妻。事実はもっと別なところに眠っている。

 もう少し上手な嘘も考えておかなきゃ──。

 一度きりで終わるような男ではないと、紗耶香は島袋の次の行動を心配していた。
 性のトラブルで破局するようなことにでもなれば、心も体も傷だらけになって、自分はきっと一生立ち直れなくなる。

 だから今は彼に従うしかないんだ──。

 そんな鈍い決心に胸を揺さぶられながら、できるだけ未来に希望を持とうと紗耶香は背すじをしゃんと伸ばした。


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