姦通―かんつう―-10
紗耶香は膣で達したことを自覚した。口の中はからからに渇いているのに、腰から下はぐずぐずと湿っている。
「奥さん一人だけ気持ちよくなるなんて、これじゃあオナニーとおなじだよ」
いがらっぽい声で卑猥な言葉を突きつけられる。彼にレイプされて自分はアクメを感じてしまったのだと、紗耶香は我が身を哀れに思った。
「私がまだ終わっていない。奥さんだって、自分を持て余しているんだろう?」
決めつけた言い方をする島袋の陰茎が、ふたたび紗耶香の股間にあてがわれる。愛液のジャムはまだまだ熱いままである。
もう、無理──。
濡れ場にいながらもなお透明感を失わない紗耶香は、言うことを聞かない手足の感覚に失望していた。そこへ島袋の男根が交わってくる。
「あああん……」
今日の出来事を忘れるなと言わんばかりの熱いかたまりが、女性器のいちばん深いところにまで挿し込まれる。
「自治会長さん……あっ、もうやめて……んっ」
出し入れがはじまると、紗耶香がまた官能を露わに声を漏らす。
「もうだ、め、やめて、ああ、うっうん、いやあ、だ、あっ……」
指を噛んだり、ソファーに顔をうずめたりしてみても、溢れる声をごまかすことはできない。
「奥さんのことが……好きになりそうだ、ああ……」
島袋の腰さばきがはげしくなる。粘膜の壁を撫でるいきおいに射精感がきわまってくる。
そこに罪の意識はない。野村紗耶香のような美人の人妻を味わうためなら、手段を選ばない島袋である。
「奥さん、奥さん、ああ出る……」
「だめ、あっ、イクっ、いや、はあ、はあ、イクうん……」
こんな自分を好きになって、プロポーズまでしてくれた健吾に申し訳がない。
けれども紗耶香は妻としての責務を頭から切り離されて、今だけは夫以外の肉体に溺れていたかったのだ。
──と、さまざまな思いが今でも紗耶香の全身にとどまっている。
ふとして現実に引き戻されると、紗耶香は自分の心音の速さに気づいて、熱くなった胸に手を添える。
私、どきどきしてる──。
エプロン姿でキッチンに立ち尽くす二十五歳の主婦。その美貌の裏に隠された不貞行為を見抜くことなど、誰にできることでもないのである。
昼と夜とでは気持ちの居所も違う。紗耶香は、はあ、とため息をついた。
島袋慶次に抱かれた肌からメントールのような刺激臭が漂ってくる。けれどもそれはただの錯覚であり、ほんとうはもっと、精液をくたくたに煮詰めたような臭いをまとっているのかもしれない。
『あの男』の臭い──。
ショーツの裏にじっとりと感じる湿り気に、やましい関係の糸を認めてしまう新妻。
あれだけ無理矢理に体をもてあそばれたというのに、行為の後の痛みや痒みがまったくないのである。
だけどもうあんなことは二度としたくないと、太ももをぎゅっと重ねたとき、携帯電話のバイブが震えだした。
まさか──。
嫌な予感を瞳に浮かべながら、エプロンのポケットにそっと手を差し込む。
そして夫の姿がないことを確かめると、紗耶香は着信メールを呼び出した。