遣らず-1
先月のいつだったか、春の匂いが鼻を掠めた日があった。
いかんせん、都会生まれの都会育ち。
それまで季節に匂いがあるかどうかなど考えたこともなかった癖に、何故か「あ、春の匂いがする…」と瞬間的に感じていたのだから自分でも驚く。
その時、本当に急に
(まるで少女漫画のようなスピードで)
彼女が遠くへ発つ春が、無意識でも解るまでに近付いてきていたことを思い知らされてしまった。
むしゃくしゃして居た堪れなくなり壁を蹴ったら、謀ったかのような風が吹いて制服のスカートがめくれた。
しかも、豪快に。
…騙されたというか、馬鹿にされたというか。
兎に角、どうにもならない有耶無耶の焦燥感を抱えざるを得ないことだけは、まざまざと思い知らされた。
それまで、仕方なしにでも“いつもどおり”に興じ続けるだろうことも。
それから一月程。
新学期も近付いてきた頃に、彼女は成田空港を発った。
見送りに行かなかった私には、脳裏につよく輪郭を残している筈のあの日の濃密なパステルさえも、朧気にしか思い出せなかったのだが。
それでも同じ頃、うすぼんやりとセンチメンタルを気取っていた。