大陸無双の大会社-2
なんとか素知らぬ顔で受付を済ませ、エレベーターへ向った。
一階のエレベーターホールは一際大きく立派だ。
五台あるエレベーターの扉は螺旋模様で飾られ、クラシカルなシャンデリアが美しい。
ホールでは十数人の男女が、階数表示のランプを見つめながら立っていた。
エメリナたちも列の最後に付き、扉が開くのを待つ。
ギルベルトは浮かない顔でエレベーターの扉を眺めていたが……。
「エメリナくん、俺はやっぱり階段で……」
そそくさと逃げようとしたグレースーツの袖を、がしっと掴む。小声でたしなめた。
(駄目です!時間がないんですから。行き先は四十二階なんですよ!)
(大丈夫だって!これだけ混んでれば、階段を昇っても俺の方が早い!)
ギルベルトも小声で抗議する。
とんでもない上階であっても、彼がいつも階段を使うのは体力づくりの為……
なんて嘘。
単にエレベーターが大嫌いなのだ。
車や電車は乗るだけなら大丈夫なのに、エレベーターやエスカレーターに乗ると、耳障りなノイズがするらしい。
しかし気の毒だが、今日ばかりは我慢してもらうしかない。
早くに家を出たのに、電車は遅れるし、工事中で道の迂回を命じられるしで、もう約束時間ギリギリだ。
「すぐに来ますよ。ほら」
ランプが点滅し、扉の一つが滑るように開く。
「はぁ……」
小さく溜め息をつき、観念したという顔でギルベルトはエレベーターに入る。
機械の箱はそう狭くもなかったが、ホールで待っていた全員が乗り込むと、かなりぎゅうぎゅう詰めになった。
乗り込み際に、エメリナは目当てのボタンを押し、ギルベルトと奥の壁際に身を寄せる。
(……じゃあ、エメリナくんが中和してくれ)
殆ど聞き取れないほど小声で、そう囁かれた気がした。大きな手に、そっと右手を握られる。
思わずギルベルトを見上げると,顔をしかめて階数ボタンの列を睨んでいた。
エメリナの視線に気づいたらしく、琥珀色の瞳がこちらを向く。
整った顔に、照れたような困ったような……かすかな苦笑が浮かんだ。
エメリナの手を握る力が、少しだけ強くなる。
「ひゃ……」
思わず変な声をあげてしまいそうになり、慌てて口をしっかり閉じる。
(ご、ごめんなさい、先生は嫌なんですよね……でも、でも……っ!!!)
――エレベーター万・歳・!!!!!
二十七歳・長身美形の青年が浮べるには反則すぎる表情に、萌え殺される。
頭に血が昇ってくらくらする。鼻血が出ないか本気で心配になった。
「――エメリナくん?降りるぞ」
ぼわっと頭が茹り硬直していたら、いつのまにかもう四十二階で、乗っていたのは自分とギルベルトだけになっていた。
「へ?は、はい!」
手を引かれ、急いで降りる。廊下に出ると、ギルベルトはホッとした顔で頭を振った。
解かれてしまった手が、ほんの少し名残惜しい。
まだ熱をもつ頬を叩いて気を取り直し、広い鏡面仕立ての廊下を歩く。
角を曲がると、大きな間口があり、『特殊・貴重品採集課』の札がかかっていた。
ここは文字通り、店で買えない特殊な品の入手を担当する課だ。
社員達はあらゆる手段を使って品物の入手に奔走するが、その大半はレンジャーたちに依頼することで可能になっていた。