エピローグ-6
水色のタンクトップに黒いパイル地のショートパンツという、寝間着のような格好に身を縮こませつつ、
「だって、こんな朝からどこ行こうとしてんのよ」
と、難色を示した顔を蓮に向けた。
「おれな、海見てえんだよ。
誰もいない海を、お前と手を繋いで歩きたいんだ」
意外とロマンチックなことを言う蓮に、優花は思わず噴き出しそうになった。
ここから海までは、そう遠くない。
少し歩いて行けばあっという間に海が見渡せる。
それが気に入って、優花はわざわざこのアパートを選んだのだ。
(人がいないとこなら化粧なんていらないか)
そう思いながら、普段使いのヒールが低いサンダルを履いて、ドアを開けた。
外に出ると、蓮は急かすように、
「さ、早く行こうぜ」
と、優花の手をギュッと握った。
久しぶりに手を繋いだことに驚いた優花は、蓮の顔を見上げる。
彼は鼻歌なんか歌いながら、優花を見てニッと笑い返した。
(これで最後だからだろうな)
蓮が上機嫌なのは、なんとなくそんな気がして、優花は握られた手に力を込めた。
鍵をかけ、カンカンと階段を駆け降りて行く二人。
その途中で優花は急に足を止めた。
「あ、テレビ消し忘れた」
「いいよ、そんくらい」
「そう?」
「細けえこと気にすんなって」
――海をちょっと散歩してくるだけなら、そんなに時間はかからないかな。
優花はそう思いながら、再び足を踏み出した。