君をもう一度抱きしめたい2-14
いつの間にか打ち解けてしまった二人に、きまりが悪くなる。
俺のいないところで、きっと悪口三昧なんだろうな、コイツらは。
……でも、その頃には確実に“手島茂”はいなくなっている。
たとえ悪口や不満しか出てこなくても、こうやってコイツらの心の中に俺という存在が刻み込まれているのなら、純粋に嬉しいと思う。
二人して悪そうに笑い合う様子に小さく笑いかけてから、俺は意を決して口を開いた。
「園田、そろそろ……」
ペンで書く仕草をして見せる俺に、奴は
「……わかりました」
と、急に神妙な顔になった。
そして、胸ポケットから小さく折り畳まれた申請書と、ボールペンを取り出すと、一つ頷いてから俺に寄越した。
カサカサと音を立てて広げた申請書をじっと眺めた。
氏名、年齢、生年月日、血液型など、俺の基本的な情報が書き込まれている書類。
それをザッと目視してから、書類の右下にある自署欄に慣れ親しんだ自分の名前をフルネームで書いた。
お世辞にも上手いとは言えない右上がりのクセ字も、もうこれで見ることはない。
手島茂としての記憶を全て失って、一からやり直すことに、今さらながら不安と名残惜しさがこみ上げてくる。
それらを払拭するように、涙がこぼれ落ちそうな瞳をグリグリ手でこすって芽衣子を見れば、彼女もまた、いつの間にか瞳を潤ませ俺を見つめていた。