制御不能の恋心-3
「んっ、あ……あ、ぁ……」
きつく眉根を寄せ、ふるふる震えている姿は、非常にいやらしくて可愛らしい。
指を増やし、まだひくひく痙攣している内部をかき混ぜると、瞳がこれ以上ないほど大きく開かれた。
「やっ!だ、だめぇ!!……まだ、だめ!!……おかしくなる……っ!!!」
「ああ、指はだめか」
埋め込んだ指を引き抜いた。自分の意地悪さに可笑しくなるほどだ。
硬くたぎった雄を押し当て、逃げようとする腰を掴んで一気に貫いた。
「――――っ!!!」
エメリナの背が限界まで仰け反る。声にならない悲鳴をあげ、結合の衝撃にあえいでいた。
狭い中は痛いほど食い詰めてきたが、腰を進めるたび、奥から潤滑液が溢れ出し、挿入を助けた。
締め付ける内部は、熱くて柔らかく気持ちよかった。誘い込むように蠢くひだが、ギルベルトに強烈な快楽を与える。
「ひっ……うっく……あ、あふ……」
エメリナはしゃくりあげながら、溺れるように喘ぐ。こわばり震えている頬に何度もキスをしてなだめると、ようやく泣き止み鼻をすすった。
「エメリナ、すごく可愛い」
艶やかな亜麻色の髪に、ざっくりと指をつきいれ、かきあげながら囁いた。
「あ、あっ、あっ……」
理解できていないのか、エメリナは切なそうに喘ぐばかりだ。瞳は焦点が合わなくなってきており、トロンと蕩けている。
挿入されながら達したらしく、内部がとくんとくんと一定間隔で深く脈打っていた。溢れた蜜でシーツもぐしゃぐしゃに濡れている。
「は……しぇんせ……っ……あっ!んんっ!」
舌足らずな甘い声がたまらず、白い喉に食らいついた。犬歯が疼き、牙に伸びてしまいそうなのを必死で堪える。
エメリナが震える両手を背中へ回してきた。
かりかりと、訴えるように爪が背を引っ掻く。短く切られているし、殆ど力が入っていないから、痛くもなんともない。
酸素を求めてエメリナが口を開き、ピンク色の舌がひくひく震えて突き出る。性感帯の一つになっているそれにも、軽く噛み付いた。
「んぅ……ぅ……」
両手両足を絡めて抱きつかれるのが、酷く心地いい。好きだと全身で言われている気分になる。
「動いていい?」
耳元で強請ると、コクコクと必死に頷いてくれた。
「あ、あ……すき……ギル……せんせ……」
混乱しきった頭で、もう呼び名を気にしている余裕などないのだろう。
奥の感じる部分を突くと、意味のある単語さえ発することができず、唇から零れるのは「あ」だけになる。
余裕を失っているのは、ギルベルトの方でも同じだった。
最初に少し苛めすぎたから、せめて後は優しくしようと思ったのに、つい激しく責め立ててしまう。
エメリナが達するたびに、肉ひだの動きは淫靡に激しくなっていく。蕩けきった表情は可愛らしくて、気絶寸前なのに必死ですがりつくのもたまらない。
何度もうわ言のようにエメリナを呼んで、奥まで貫いた。きつく抱き締め、体液を注ぎ込む。
腕の中で愛しいハーフエルフが、くたりと意識を失った。
ありったけの欲望を吐き出すと、波が引くように激情が納まり、穏やかな心地よさに包まれた。
今すぐ眠ってしまいたいほどだったが、ベッドは酷い有様だ。
両手をかざし、浄化魔法の呪文を唱えた。使いこなすにはコツがいるが、未だに廃れず残っている便利な魔法だ。
金色の炎が、敷布と二人の身体を舐めるように広がっていき、汚れだけを燃やしつくす。
ぐっすり寝入っているエメリナが、かすかに瞼を震わせた。
「ギル……せんせい……」
可愛らしく寝言を呟き、眠ったまま子犬のように身体を摺り寄せてくる。
たまらなく愛しくて、抱き締める手に力を込めすぎないよう苦労した。
腕の中の少女から、じんわりとした温もりが伝わってくる。
エメリナと会ったあの頃、懐かしい家族と故郷から離れ、饐えた空気と濁った夜空で無理やり本能を抑えるのに、疲れ果てていた。
電気のノイズは耐え難いほど耳障りで、いっそ何もかも捨て去りたくなっていた。
それがいつからか、エメリナの傍にいると、それほど苦痛でなくなっているのに気づいたのだ。
空気が澄むわけでもないし、あいかわらず電化製品も使えないけれど、エメリナの漂わせる香りが、ズタズタに傷ついた神経を癒してくれる。
彼女は香水などつけていないから、ギルベルトを助ける香りは、純粋にその身から発されていた。
先祖達の記録を調べるうちに、ラインダース家の始祖たるルーディが、似たような事を書き記しているのを見つけた。
一族を抜け、もう誰とも関わる気のなかった彼も、フラヴィアーナという人間の少女に、どうしようもなく惹かれたそうだ。
誘惑の香りを漂わせる彼女は、きっと自分と相性が良かったのだと、祖先は記述していた。
それが本当だとしたら、エメリナと自分も相性が良かったのだろうか。
相性が良いというのは、双方にか?それともギルベルトが一方的にか?
制御不能の恋に落ち、理性で止められないほどの想いを抱いてしまったのは、自分のほうだけではないかと、不安になる。
ウトウトとまどろみながら、艶やかな亜麻色の髪を指先に滑らせた。
わずかに尖ったハーフエルフの耳が、ピクンと動く。
祖先の生きた頃から、時代はすっかり変わった。
科学が魔法にとってかわり、異種族協定が結ばれ、混血も珍しくなくなった。
繁栄する種があれば、一方で淘汰され滅びる種もある。
そしてすでに滅びていようと、恐れ忌み嫌う対象として、今だその名を世界に留めている存在もあるのだ。