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異種間交際フィロソフィア
【ファンタジー 官能小説】

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運転上手のお転婆娘-2

「お父さん、何か手伝う?」

 昔からエメリナが手伝うのは、もっぱら台所よりガレージだ。
 トラクターの傍らで工具箱を開いていた父は、エメリナを見ると、嬉しそうに壁へ向けて顎をしゃくった。

「急ぎの仕事はないさ。それより、お前がちっとも帰ってこないから、一人で完成させちまったぞ」

 工具棚の横には、分厚い防水布で覆われた大きな物体が鎮座していた。
 防水布を取り除くと、流れるようなフォルムが美しい小型で細身のバイクが現れる。
 エメリナが家を出る少し前から、父がコツコツ組み立てていたものだった。
 道路より、整備されていない荒地を走る目的に作られ、エンジンの泥よけやタイヤなど、少しくらいの悪条件ではビクともしないよう工夫されている。
 設計図を見せてもらった時は心が踊ったし、組み立ても少し手伝わせてもらった。

 ピカピカの車体を撫で、エメリナは感嘆の溜め息を漏らす。
 できればこれの完成する瞬間に立ち会いたかったが、実家へろくに寄り付きもしなかった報いというものだ。

「もう乗ったの?」

「ああ。お前も乗ってみるか?」

「うん!あ、でも……もうしばらく、何も運転してないから、大丈夫かな」

 運転は大好きだったが、王都にいる間は徒歩か交通機関ばかりだ。なにしろ駐車代金がバカみたいに高いうえ、道路は常に渋滞している。

「心配なら、その辺を一周するくらいにすればいいだろう」

 父はいそいそとエメリナのヘルメットや手袋を戸棚から引っ張り出し、押し付ける。
 母は過保護すぎる程なのに、父は娘にやたらと冒険をさせたがるのだ。エメリナが一人暮らしをできたのも、父が肩入れしてくれたお陰と言っていいだろう。

 価値観も種族も違う両親が、どうして未だに熱愛中でいられるのか、まったく不思議だ。

「じゃぁ、ちょっとだけ乗ってみる」

 ヘルメットと手袋をつけ、シートに座った。エンジンをかけると、気分が一気に高揚する。
 家の近くを軽く走るくらいにしようと思っていたのに、気持ち良い風の中をもっと走りたい誘惑に勝てなかった。

 市街地から離れたこの周辺は農地や牧場ばかりで、広い農道に時おりトラクターが走っているくらいだ。

 農地の合間には、地盤が固すぎて何にも使えない荒地が沢山ある。
 大きな岩があちこちに点在する荒地は、バイクやオフロード車の練習にはもってこいだ。
 正確には国有地なのだが、実質的に見捨てられた土地だ。誰の迷惑にもならないから、思い切り速度を出して走りまわれる。

 天然の障害物コースを走り抜け、最後は家の裏手にある岩山から、デコボコの斜面を一気に駆け下りた。

「はぁっ、はぁ……最高!」

 ガレージに戻り、息を切らせながらヘルメットを脱いだ。ずっと眺めていた父が口笛を吹く。

「腕は落ちちゃいねぇな。サーカス団が見たら、曲芸乗りのスカウトに来るぞ」

「もう、お父さんってば、変なこと言わないでよ」

 照れ笑いをするエメリナの背後から、拗ねたような母の声が響いた。

「そうですよ。そんなのが来たら、私が追い返しますからね」

「うわっ!お母さん!!」

 母は白いエプロンをつけた腰に両手をあて、憤然とエメリナを睨む。

「あなたが丘を転げ落ちるのが、窓からしっかり見えたわよ。心臓が止まりそうになったわ。また危ないことをして」

「あれは落ちたんじゃなくて、降りたって言うの!」

「どっちも同じよ。コーヒーを淹れたから、手を洗ってらっしゃい」

 有無を言わせぬ口調で断言し、母はさっさと行ってしまった。
 エメリナと父は顔を見合わせ、苦笑いする。
 ああは言っても、バイクを取り上げられなかったのだから、許容範囲らしい。



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