君をもう一度抱きしめたい1-9
芽衣子はゆっくり身体を起きあがらせると、狐につままれたような顔で、俺の顔を覗き込んだ。
「え、何これ……夢?」
そう言って、彼女は俺の頬をペチペチ叩いたりつねったりした。
……普通は自分のほっぺたつねるだろ。
笑いながらそう突っ込みたかったのに、なぜか言葉が詰まって声を出せなかった。
ならば夢じゃないってことを教えてやろうと思い、芽衣子の頬をつねり返してやろうと右手を上げた。
だが、
「……茂?」
と、芽衣子が俺の名前を呼んだ瞬間、俺は右手を上げたまま固まってしまった。
同時に、霊魂となってからの短くも濃い記憶が怒涛のように押し寄せてきた。
――あんなに気付いて欲しくても、気付いてくれなかった芽衣子が、やっと、やっと、俺の姿を見て名前を呼んでくれた。
“しげる”とたった三文字を言われただけなのに、万感交々至った俺は、抑えていた涙がどうにも止められなくなってしまった。
そして芽衣子の頬をつねるつもりだった右手は、そのまま彼女の背中にまわり、気付いたら俺は、彼女を壊れるくらい強く強く抱き締めていた。
「芽衣子、……芽衣子!」
バカの一つ覚えみたいに何度も芽衣子の名前を繰り返す俺。
端から見れば間抜けだなと思いつつも、何度彼女の名前を呼んでも足りなかった。