精通タイム 前編-4
保健室の椅子に座らされた修平の頬にガーゼを当てながら、中年の養護教諭が強い口調で言った。「あんたたち、ばかじゃないの?!」
修平の横には、顎と額にやはりガーゼを当てられた健太郎が憮然とした表情で座っている。
「入学した日にケンカしたのはあんたたちが初めてよ! 新学期早々いきなり仕事増やさないでくれる?」
養護教諭は修平と健太郎の頭を平手でぺしぺしと叩いた。
修平たちの前には、腕組みをして厳しい顔をした彼らの担任が仁王像のように立っている。
「まったく、何が原因なんだ?」
「俺が、こいつの妹の胸を観賞してたら、いきなりこいつが殴りかかってきたんす」
「胸?」
「はい。でかい胸だなーって」
担任は呆れたようにため息をついて、次に健太郎を見下ろした
「シンプソンは、なんで天道に?」
「妹をそんな目で見られるのがいやだったんです」健太郎はうつむいた。
「お互い様だわね」養護教諭が言って、遠慮なく大きなため息をついた。
「きっかけはともかく、お互いに殴り合って、同じように顔を腫らしているわけだし……」担任もため息をついた。「二人の家には電話しとく。君たちも自分の口で事実を説明しとけよ。わかったな」
健太郎も修平もお互いに顔を背け合ったまま黙ってうなずいた。
「今は興奮してるから、お互い謝りたくはないでしょうけど、」養護教諭が二人の間にしゃがんで、交互に健太郎と修平の顔を見ながら優しく言った。「今からお互いのいい所を見つけるように努力して、近いうちにちゃんと謝るのよ」
「はい……」健太郎だけが小さく返事をした。
養護教諭は腰を伸ばした。「あんたたち、きっといい友だち同士になるわ。そんな気がする」
そして彼女は笑って、二人の肩を同じようにぽんぽんと叩いた。
先に保健室を出て行った修平の姿が見えなくなったのを確認して、健太郎は立ち上がった。「すみませんでした。迷惑かけちゃって……」
「また明日な」担任は笑って健太郎を見送った。
健太郎が生徒用玄関を出た時、不意に声がした。「悪かった」
「え?」健太郎は声のした方を振り向いた。
照れたように頭を掻いた後、修平はすぐに小走りで駆け去って行った。