アイドリング-8
それから人目を避けた車内でキスをして、濃密なカーセックスでコミュニケーションを交わしたあと、女子大生友里の初めての試乗は無事に終わった。
二人して店舗へ戻ると、ふたたびよそよそしい距離をつくって商談のつづきをした。
「ところで水越様──」
商談の途中で西山が話題を変えてきた。
「このたび、A市のほうに2号店をオープンさせることになりました。豊富なラインナップでお客様をお出迎えするのはもちろん、よりハイグレードなサービスをご提供することをお約束いたします」
「それっていうのは、車のことですか?それとも、アッチのことですか?」
頬を赤らめる友里の性格からして、リピーターになるのは確実だと西山は読んでいた。
「それは、水越様のその目で確かめたほうがよろしいかと」
いつもの癖で、下唇に指を添えて考え事をする友里。心はもう決まっていた。
「いらっしゃいませ」
店内にスタッフたちの声が響きわたる。どうやらまた新たな女性客が来店したようだ。
男性スタッフと女性客とのやり取りが、友里のいるところにまで聞こえてくる。
「試乗、なさいますか?」
「はい、試乗します」
今日もどこかの町のどこかのカーディーラーで、そのような会話が交わされている……かもしれない。
おわり