アイドリング-2
こうして女子大生友里のあぶないドライブがはじまった。
「乗り心地はいかがですか?」
路上に出たところでナビから音声が聞こえてきた。西山という、先ほどの男性スタッフの声だ。
「音も静かだし、すごく快適です」
「ありがとうございます。ひとつ言い忘れていましたが、その車は特別仕様車となっていますので、のちのちサプライズを体験していただくことになるかもしれません」
「サプライズ?」
「女性のお客様からは大変な好評をいただいています」
「そうなんですね。それじゃあ楽しみにしています」
「おそれいります」
このコンパクトな車のどこにサプライズが仕掛けてあるのだろうかと、友里はかすかな胸騒ぎを連れて軽快にハンドルを切っていく。
「水越様、ドリンクホルダーのところにボタンがありますよね?」
「この青いボタンのことですか?」
「とりあえず押してみてください」
まさか車が変形して、いきなり空を飛んだりするんじゃないだろうか、とか考えながら友里は青いボタンを押した。
「えいっ」
するとエアコンの吹き出し口から蒸気のようなものが出てきて、友里の鼻腔に爽やかな香りをはこんでくる。
いい匂い──。
「アロマオイル入りのミストでございます。美肌効果のある天然の植物エキスからできているので、試乗が終わる頃にはピチピチの肌になっていることでしょう」
西山からの心遣いを全身で受け止める友里。目の前のアスファルトがたちまち薔薇色のレッドカーペットに見えてくる。
このまま世界の果てまでどこまでも走りつづけたい気分だった。
「水越様は運転がお上手ですね」
「そんなことまでわかるんですか?」
「試乗車のデータはすべてこちらに送られてきます。ですので、アクセルやブレーキのタイミングとか、ハンドル操作の微妙な癖までわかるんです」
もしかして、あたしが西山さんのことを意識している気持ちまで知られているのかも──。
いやん、とはにかむ友里。胸のときめきがどうにも止まらない。
「200メートル先に停車スペースがあります。近づいてきたらハザードランプを出しながら車を左に寄せてください」
西山からの指示があって間もなく、目的の場所が近づいてきた。
「ええと、車を左へ寄せて、ハザードランプは、確か……」
下唇に指を添えて考え事をするのが友里の癖だった。その指がハザードのスイッチを押す。
「えいっ」
途端にカチコチと音がして、ハート型のサインが点滅する。
「あれれ?」
おなじくして、友里の体にも異変が起こった。