プロローグ-1
「なんで始業式の日から授業があるんだよ!」
友人の拓弥(たくや)がぼやいていた。
「仕方ないだろう....ウチは進学校なんだから....」
「それはわかっているけど....今日ぐらい....」
「そう言うな!俺達はあと1ヶ月程で授業も終わるんだからな!」
「そうなんだよなぁ....」
「どうしたんだ?暗い顔して....」
「姫と逢えるのもあと1ヶ月かと思うと....」
姫とは姫川美菜(ひめかわみな)さんの事で我が校一の美人だと噂される才女だった。
「しっかし....お前もメゲないなぁ....毎日のようにラフレターなんか渡して....」
拓弥はずっと姫川さんにラブレターを渡していた。最初の頃は受け取っていた姫川さんも最近では読まずに捨てていた。今では朝の定例行事になっている。
「俺に出来る事はそれくらいだからな....しつこく付きまとうわけにもいかないだろ!手紙なら読む読まないは彼女の自由だからな!」
俺はそんな拓弥が羨ましく思う事もある。もっともフラれ続けるのは勘弁してもらいたいが....
「あっ!こんな所で無駄話してる暇はない!昼飯を食いに行こうぜ!」
拓弥がそう言って立ち上がった。
「そうだな!」
俺も立ち上がろとした時
「葛城君!可愛いお客様よ!」
クラスの女の子が入り口を指差していた。見ると三崎笑美(みさきえみ)ちゃんが立っていた。
「笑美ちゃん?」
俺が笑美ちゃんの所に行くと
「純兄ちゃん....あのね....良かったら....これ食べて....」
そう言って布袋を差し出した。
「えっ?」
「お弁当を作って来たの....お母さんにパソコンを貰ったお礼に作って持っていきなさいって言われたから....」
真っ赤になって俺に弁当を差し出していた。
「笑美ちゃんが作ってくれたの?」
「うん....あっ..でも..いらなかったら捨ててもいいから....」
「そんな勿体ない事するわけないだろう!良かったら一緒に食べない?」
「えっ....でも....」
笑美ちゃんが戸惑っていたのでまわりを見ると視線が俺達に集中していた。
「ここじゃゆっくり出来ないから....屋上にでも行こうか?」
「うん!」
笑美ちゃんと二人で教室を離れようとした時
「裏切り者ぉ〜」
拓弥の悲痛な叫び声が響いた。
その日は冬にしては暖かい日で屋上に出ても寒くなかった。屋上で弁当を広げると、綺麗に並べられた弁当が目に入った。
「これ全部笑美ちゃんが作ったの?」
「うん....口に合うといいんだけど....」
「大丈夫だよ!笑美ちゃんが料理上手なのは正月のおせち料理で知っているからね!」
「そんな事言われると....プレッシャーが....」
「大丈夫だよ!」
俺は煮物を摘み口に運んだ。
「どう?」
笑美ちゃんが心配そうに俺の顔を覗き込んだ。
「うん!美味いよ!」
「本当に?」
「ああ!ほら!笑美ちゃんも!」
俺が煮物を摘んで笑美ちゃんの口に運ぼうとすると
「えっ!」
笑美ちゃんは驚いたような顔をした。
「どうしたの?ほら!」
俺に促されて笑美ちゃんは恥ずかしそうに口を開いた。俺は煮物を口に入れ
「どう?」
笑美ちゃんに尋ねると
「緊張して味がよくわからなかった....」
笑美ちゃんは小声で何か呟いた。
「えっ?」
笑美ちゃんはハッとして
「自分で作ったのを褒めるのも変でしょ!」
「それもそうだね!」
俺は笑うしかなかった。