月夜の雫-8
駅で長谷川さんはすぐにわかった。
イメージ通りであたしは自分の想像力を褒めたくなった。
カッチリしたスーツに程よい高さの黒いヒール。
自由業のような格好のあたしとは正反対だ。
あたしは声をかけ、一緒に徹の部屋に向かった。
合鍵で部屋に入ると、だいたい説明されていたんだろう。
迷いもなく徹の寝室のテーブルの上から
小さなUSBを探し出した。
「助かりました。これです」
「良かったですね」
そそくさと帰ろうとするあたしとは反対に
長谷川さんは部屋をじっくりと見回した。
「部屋もきれいにしてるんですね」
なんなんだ?この女。
「お手数をおかけしました。今後このようなお手数をおかけしないように
わたくしも鍵を預かったほうがいいのかしら」
綺麗な顔で笑う長谷川さんに唖然としていると
「急ぎますので」と先に帰られた。
言い返せなかった!
あの女・・・・
あんな女にあんなことを言わせる徹も徹だ!
そして、ニッコリとさせたのはあたしの格好だろうか?
あたしの職業だろか?
あたしはずーんと落ち込んだまま徹のマンションをあとにした。
アパートの最寄駅に着くとポチがガードレールに寄りかかっていた。
「ポチ」
「買い物して帰ろうかと思って待ってた」
あたしはひと粒涙を流して、そんなあたしに気づかないふりをして
そっと手を握ってくれてポチは歩き出す。
落ちた涙は雫となってキラキラと月夜に反射して綺麗だった。
あたしたちは満月から2日目の光を浴びながら
スーパーまでを遠回りして歩いた。