月夜の雫-7
「もちろん宇野さんから聞いて存じております」
徹から聞かなくても察しろよ!
働いていない未婚者がそんなにいるわけないでしょ!
「本日は定時で上がれますか?出来ればわたくしも一緒に宇野さんの家に行って
そのままデータを社に持ち帰りたいのですが」
あたしの予定を一応は聞いてくれてるけど
すでにスケジュールはできている口ぶりだ。
軽く、でも聞こえるようにため息をついたあとに
「了解しました」と返事をした。
返事をせざるを得ない状況だ。
あたしの仕事と徹の仕事じゃ
社会的に重みが違う。
と、長谷川さんは思っているのだろう。
J大を出て徹は日本有数の総合商社に入社した。
どんな手を使ったのか知らないが
やつは海外事業部に潜り込んで若手のホープらしい。
一方あたしはJ大を卒業して映画の翻訳家になった。
洋画が大好きで、英語が好きになってJ大に入った。
その洋画を好きなだけ見れて仕事にできるなんて
あたしには夢のような仕事だけど、世間ではそうは見ない。
卒業から5年。あたしと徹のお給料は倍以上の差が付いた。
徹は職場で周りは才女ばかり。
徹の近頃のそっけなさというか、あたしへの執着心のなさは
ここら辺から来ているような気がする。
あたしの仕事を恥ずかしいと思っているのかもしれない。
そんなことを考えながら午後の仕事をしていたら
予定の部分まで終わらなかったが約束だ。
定時に上がって徹の家の最寄駅に急いだ。