週末デートの締めくくり-5
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――女子二人が盛り上がっている頃、ギルベルトは書斎の大きな窓から夜空を見上げていた。
都会の電気で濁った空に、殆ど欠けた月が僅かに浮かんでいる。
小さな溜め息をつき、古い本を取り上げた。先祖が書き記したこの本は、もうすっかり暗記してしまった。
それでも時おり、手にとって眺めてしまう。
かすれたインク文字に滲みこんでいる、先祖の息吹を感じ取ろうとするように、繰り返し読まずにいられない。
(まいったな……)
自分自身へ、舌打ちしたくなる。
エメリナは非常に頭が良い。
そんな彼女が今までギルベルトの秘密に気づかなかったのは、あくまでも上司と部下の関係だったからだろう。
だから、こんな関係になるべきではなかったのだ。
(まるで、獣の所業だ)
理性でわかっていながら、好物を目の前にした獣のように、本能に逆らえなかった。
『変身』のあとは興奮が収まらず、理性が崩れかけるのを自覚していた。
でも、今までで一度たりとも、そういう時に誰かを抱いたことなどなかった。
恋もしたし、抱いた女性もいたけれど、本能がむき出しになる満月の時は、傷つけてしまいそうで触れたくなかった。
それなのに、エメリナだけはどうしても我慢ができなかった。
駄目だと内心で叫びながら、ごく普通の人間を装い、素知らぬ顔で恋心を伝えた。
彼女を騙したも同然だ。
(もし知ったら、エメリナくんはどう思うかな……)
机に放ったままの携帯電話が目に入り、もう一度深い溜め息をついた。
ギルベルトの秘密を知っている相手は、家族やバーグレイ・カンパニーの関係者に、何人かいる。
自己憐憫に浸る気などない。とても周囲に恵まれ、愛されたと思う。
だからこそ、電気が使えない体質でも、存在するだけで罪とされる身体でも、いじけることなく育って来れた。
だが、彼らは先祖代々から秘密を共有する者たちで、ギルベルトが自分から誰かに秘密を話したことは、一度も無い。
エメリナの優しく思いやりのある性格を知っている。愛しているし、誠実な子だと信じている。
けれど……どんなものにも限界というものはあるのだ。