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闇よ美しく舞へ。
【ホラー その他小説】

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闇よ美しく舞へ。 『カマイタチ』-1

 午前0時を少し過ぎた頃、いつものように最終列車が通り過ぎた。
 そして今夜も誰かが、犠牲になった。
 地方都市を東西を遮(さえぎ)るかの様に横たわる、大手私鉄の営業路線。その線路のとある踏み切りを指して、誰かが言った。『鎌イタチの居る踏切』だと。


「ねえねえ聞いたぁ。また出たんですって、『カマイタチ』!」
「怖いわあぁ!」
「私立高の女子が腕を切られたんですって!」
「え〜やだなぁ…… あそこ塾へ行く時通るのにっ」
 鎌イタチの踏み切り、そんなオカルトめいた踏み切りの近くで、ケガ人が出る度に学校中がそんな騒ぎで盛り上がる。
 実際には、そんな作り話の様な妖怪の類(たぐい)が居るはずもなく、誰もが只の『都市伝説』に過ぎないと言う事は、理解もしていた。それでも若者は、そう言ったオカルトめいた話に夢中に成り、怖いもの見たさに、態々(わざわざ)深夜にその踏み切りへと、出張って行く男子生徒まで居たようである。
 何時の時代でも、そんな妖怪や幽霊といった迷信話は、尽きる事が無いらしい。
「馬鹿馬鹿しいっ、カマイタチだなんてっ! そんな物居る訳が無いじゃないかっ! きっと列車が通過する際に起こる風のせいで、真空のスポットでも出来るんだろっ」
 不意に一人の男子生徒が、固まって話をしていた女子のグループの中へ割って入ると、もっともらしくそんな事を力説する。このクラスの委員長でもある『須藤 拓也(すどう たくや)』である。
「そりゃ解ってるわよ、妖怪ないて空想だって事ぐらいっ!」
「別にいいじゃなぁいっ!」
「あんたには関係ないでしょ!」
 話の腰を折られて女子達も気分を害した様だ。罵声を浴びせながら、拓也の言動を皆して非難した。
 だが当の拓也は平然としたものである。女子グループの真ん中で立ち尽くし、高校生にしては少し年寄り臭い感じの、銀縁メガネを手でチョコンと押さえながら「フフンッ!」と、鼻で笑って居た。
「だいたい君達だって信じてはいないくせに、なぜにそんな馬鹿げた話で、そこまで盛り上がれるのやら、そっちの方が僕にとっては大いに謎だよ」
 嫌みったらしく口を挟んで去っていく拓也に、女子も総出で文句を浴びせていた様だが。拓也は全くもって気にする様子も無い。黙って教室を出ると、そのまま下校して帰宅してしまった様である。
 そんな拓也の後ろ姿を『龍神 美闇(たつがみ みあん)』は、黙って見詰めて居た。
 どうやら彼女もまた、彼と同じように、迷信とか都市伝説には一切の興味が無いらしい。クラスの女子が騒ぎ立てる中、彼女だけは『カマイタチ』の話に耳を傾ける事は無かった。
 美闇もまた、クラスでは浮いた存在である。何処となく暗い感じが人を遠ざけているのか、友達も無く、おしゃべりをする相手も居ない様子で。一人で帰り支度を整えると、長い黒髪を揺らしながら教室を後にしたのだった。

 数日が過ぎていた。

「たぁーくっ! やってらんないわよあのバカ課長っ! 今期の売り上げ目標が厳しいからって、毎晩毎晩残業なんかさせやがってっ! あんたの怠慢(たいまん)のせいだっちゅうのよっ! ったくーー腹立つぅ!!」
 若いOLが一人、大きな茶色の封筒を小脇に抱えながら、どうやら仕事で遅くなったのだろう、ぶつぶつ愚痴を零しながら、暗い夜道を自宅へと急いでいた。
 そんな彼女の歩みを、けたたましく鳴り響く警報機の音と、長い竹ざおの様な遮断機が遮っていた。
 OLは左腕にはめた小さな腕時計の針を見詰めて、
「あっちゃ〜もうこんな時間かぁ。付いてないなぁ」
 そう言って、目の前の踏み切りを通過する午前0時の最終列車を、恨めしそうな顔をしながら、見送っていた。


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