君とサヨナラする日2-9
「芽衣子……」
久留米はようやく芽衣子の答えを聞けて安心したようで、ハーッと息を吐いてから、彼女のそばへと足を踏み出そうとしていた。
そんな奴をジッと見ていた芽衣子の顔は、少し曇り始めていた。
「……でもね、心のどこかで茂のことがいつもチラつくんだあ。
忘れようとすればするほど、茂の仕草とか言動とかばかりが勝手に思い浮かんできて、それがやけに懐かしくて、気付けばアイツの真似ばかりしてた。
茂の服を勝手に着てみたり、花火の時に怒鳴り込んできたおじさんに“騒いでいたのは久留米くんだ”と嘘吐いてみたり、苦手だったけど茂の好きなものを食べてみたり、茂の仕草を真似しながら煙草吸ってみたり。
アイツがいなくなって空いてしまった役割を演じることで、なんとか自分を満たそうとしてたんだよね」
久留米の足取りがピタリと止まり、そして奴は、眉間にシワを寄せながら芽衣子を見つめた。
すると彼女は再び涙をポロポロ流していた。
「……でも、茂の真似ばかりしたってそれじゃ足りないの!
あの調子のいいヘラヘラした笑顔が見たい。
いつもの軽い口調で“芽衣子”って名前を呼んで欲しい。
背中をポンポン叩きながら抱きしめて欲しい。
……ううん、触れなくてもいい、たった一目でいいから、茂に会いたい……!」
芽衣子は両手で顔を覆うと、こらえていた何かが一気に溢れ出したかのように激しく泣きじゃくり始めた。