君とサヨナラする日2-8
俺も失って初めて、何気ない毎日の生活のありがたみや幸せを知ることができた。
もし俺が生きてるうちにそれに気付いていれば、自ら死を選ぶような真似などしなかっただろうにな。
そう思いながら、自分の実体のない手をジッと見つめた。
「そんな当たり前の日常が急になくなると、胸にぽっかり穴が開いてしまうんだよね。
仕事をしても、家にいても、どこか自分が抜け殻みたいになったような気がして……。
だんだん自分がその穴から朽ち果てていくような気がして怖かったけど、そんなあたしの心の隙間を埋めてくれたのが、久留米くん、あなただった」
芽衣子が真面目な顔を久留米に向けると、奴は少し恥ずかしそうに俯いた。
「久留米くんがあたしのこと好きって言ってくれた時、スッゴい嬉しかったし、かなり心がぐらついた。
今まであたしにとてもよくしてくれたのは、もしかして好きでいてくれたからなのかなあって思ったら、急にドキドキしてきちゃってさ。
それに茂を失って、淋しさと悲しさに押しつぶされそうになっていたのと、襲われたばかりで一人でいるのが怖かったあたしには、久留米くんの存在がどうしても必要になっていた。
だからあたしは、このまま死んだ茂のことなんて忘れて、久留米くんと前に進もうと決めたの。
久留米くんとなら絶対幸せになれると思ったし、ずっと好きでいてくれた、その気持ちに応えたかった。
茂との写真をみんな処分したり、茂の物は一切持っていかないことに決めて、引越す準備をしたのは、あたしなりにけじめつけたつもりだったの」
写真を潔く捨てたあの時の彼女の姿が再び脳裏に浮かび上がって、俺はキツく目を閉じ、それを振り払おうとした。