君とサヨナラする日2-7
芽衣子は大きく伸びをし、瞳をゴシゴシこすってから、久留米に向かってイタズラっぽく笑った。
「あーあ、最初っから久留米くんを好きになってれば、あたしは幸せだったんだろうなあ。
それなのに、あたしはあんなバカ男好きになっちゃって。
昔っから友達にもよく言われたんだよね、“あんたは男を見る目がない”って」
「だろうな。あんな見事なヒモならば、さすがにオレもフォローできねえや」
久留米も鼻の下を擦りながら、ククッと小さく笑った。
二人してひどい言い方をしていたが、今の俺にはそんな毒舌の方が気持ちを楽にさせてくれる。
こんな緊迫した場面だからこそ、ほんの少しでも二人が笑ってくれれば安心できるってもんなのだ。
「でもね、あたしは茂を好きになってホントによかったと思ってる。
浮気されたり、殴られたり、散々泣かされたことの方が多かったけど、ここまで付き合ってこれたのは、それ以上にたくさんの幸せを茂からもらったからだと思う」
「芽衣子……」
「不思議なもので、茂がいなくなるといい思い出しか浮かんでこないの。
まあ、いい思い出って言っても二人で一緒にご飯作ったりとか、河川敷を手を繋いで散歩したりとかそういうささやかなものばかりなんだけど、あたしにはそんな当たり前の幸せで充分満足できてたんだなあって、今頃わかったんだよね」
芽衣子は、懐かしそうに目を細めて空を見上げた。