君とサヨナラする日2-2
「あたしもそう思ってた。
さすがに飛び込んだあの日はパニックになって、“茂のこと忘れさせてやる”って言ってくれた久留米くんに甘えちゃったけど」
「あ、あれは……、オレ、こんなことになってるなんて知らなかったから……」
芽衣子の顔を見上げた久留米の顔は顔面蒼白になっていた。
「久留米くんは、茂が蒸発したと思ってたんでしょ?
どの道、あの日で茂とは別れることになっていたんだから、茂はあたしを捨ててどこか遠くに行っちゃったって、そう考えていた方が楽だった。
だからあの時は、茂のことなんて忘れてやるつもりであたしから誘っちゃっただけなんだから、そんなに自分を責めないで」
芽衣子は、そんな久留米ににっこり微笑んだ。
今更ながらあの日の芽衣子の真意を知り、俺は黙って下唇を噛み締めた。
「それに久留米くんがいてくれたから、あたしはなんとかいつも通りの生活ができてたんだよ。
だからいいかげん吹っ切って、少しずつ茂のいない世界に慣れていこうと決めたんだけど、そんな矢先にあたし、会社で新聞読んでて、あるニュースを知っちゃったんだ。
……あたしが知らない男の人に襲われたあの日だった」
それは思い出したくもない出来事だったが、それをきっかけに、久留米が芽衣子に想いをぶつけた、印象深い日でもあった。
あの時の芽衣子は明確な答えを出さなかったけど、実は俺の死を知ったからこそ、久留米の元に行く決意をしたのではなかろうか?
久留米が告白した次の日から、自分の荷物をまとめ始め、俺の荷物は実家宛てに送る準備をし、俺達の思い出の写真を潔く捨てた彼女の姿を思い出す。
なんとなくそんな気がして芽衣子をチラッと見た。
すると、穏やかに微笑んでいた芽衣子の口元が次第に歪んでいき、唇から漏れる声が涙を含み始めた。
「I岬で若い男の水死体が上がったって……」
「…………」
「……死体は、腐敗がかなり進んでいて、身元を割り出すのに難航してるって書かれていたんだけど、公表されてたおおよその死亡推定日時は、あたし達が飛び降りた日といっ……」
「言うなっ!!」
久留米は涙と鼻水でグシャグシャになった顔を上げて、芽衣子を睨みつけた。