卑弥呼-2
「みなに集まってもらったのは他でもない。南の狗奴国の対策のためだ。」
三十数人の王を前に卑弥呼の弟の男王が口火を切った。ちなみに卑弥呼はこの席にはいない。卑弥呼に会えるのは男王と奴の中の数人だけである。
邪馬台国はあくまで連合勢力の盟主的な存在であって、独裁的な権力は持っていない。それに、狗奴国との戦いで敗北が続き、その盟主としての権威も揺らいでいる。それでも未だに邪馬台国にとって代わろうという国はない。それはひとえに卑弥呼のカリスマ性による。卑弥呼のおかげで各国とも天災を免れたという意識は強い。また、狗奴国との戦いで決定的な受けていないのも卑弥呼の呪術のおかげだと信じている。
「それで、卑弥呼様の占いではなんと出たのだ?」
末廬国の王が聞いた。冷静沈着。それでいて卑弥呼に対する忠誠心は人一倍強い。
「それが…だ。『ギ』に頼れとのお告げだ。それが何かわからんのだ。」
「ギ…?」みな一同に首を捻った。
「それは誰かの名前かの?」と末廬王。
「いや、それすらも…。ただ、邪馬台国の中を探したが、それらしい者は見当たらなかった。」
「そうか…。」と言いつつ、向かいに座っている投馬国王を見た。投馬国王は五十を過ぎ、この中では最年長であり、それだけ知識も深い。しかし、投馬国王も困惑気味だ。
「申し訳ない。私にも全く…」と言いつつ頭を下げる。
「あなたもご存じないか。ではどうする?やはりここは公孫氏に使者を送り助言を求めるか…。」
「よろしいですか?」邪馬台国王の呟きに反応するように一人の王が発言した。一支国王である。
「おお、一支国の…。何かありますかな?」
「公孫氏の件ですが…。公孫氏が滅ぼされたという情報が我が国にもたらされたもので。」
「なに!なぜそのような大事をすぐに言わんのだ!」邪馬台国王が思わず大声をあげ、他の王たちも困惑気味に隣通しで話したりしている。
「未だに正確な情報か確認できておりませんので…。それに、今は狗奴国の問題を先に解決するべきかと思います。」
男王は腕組みをしつつ、思案を巡らせている。
「対馬国にそのような話は伝わっていませんでしたか?」
投馬国王が別の角度から質問した。
「確かに、公孫氏が西から攻められているという話は聞きました。しかし、まさか滅ぼされたところまでは知りませんでした。元来、海の向こうでは公孫氏の他にいくつもの国があり、かつての倭国のように争っていたということ。その中の国の一つが成長したのではないでしょうか?」
最も大陸に近い対馬国の話である。その話に異を唱えるものはいない。
「ではどうするか?」邪馬台国王はまだ決めかねていた。みかねた投馬国王が
「とりあえず、その公孫氏を滅ぼした国に使者を送ってみてはどうでしょうか?公孫氏と繋がりがあったとはいえ、まさか我々の使者を迫害したりはしないでしょう。」と言うと、
「なんと!そのような得体の知れないものに使者を送ったところでどうしようもないだろう!それよりも狗奴国をどうにかするべきではないのか?」と奴国王が反論する。奴国王はまだ二十を少し過ぎたばかりでつい先頃王になったばかりだ。まだ若いせいかもしれないが、血気盛んで王と言うよりも戦士のほうが向いているのではないかと思われる。
「我々では『ギ』というものについての知識がない。こういう場合には違うところから見て突破口を開くものだよ。」親子ほども違う投馬国王が息子を諭すように話す。
「これは申し訳ありません。つい熱くなってしまいました。」素直に謝れるのも若さ故か、奴国王はすぐに自分の意見を撤回する。
「いやいや、若いうちはそうでなくてはならんよ。」投馬国王は頼もしそうに奴国王を見つめる。
「では、一度西の国に使者を送りましょう。我が国は使者を送りますので、末廬国王と投馬国王は献上品をえらんでください。対馬国は海の向こうの韓の国と交渉を初めてください。」
邪馬台国王はそう言った後、解散を命じた。