幸せの味。-1
拓海は今日も帰ってこないだろう。
食器棚からカップを出してコーヒーを入れた。
二人で買ったペアのカップは、最近片方だけしか使わない。
「一緒にコーヒー飲もうって買ったのにな…」
苦笑しながら呟くと、「独り」が一層増した気がした。
カップの中の焦茶色は、心なしかいつもより苦く感じる。
同棲しだしてから約一年。
今、拓海の仕事はとても忙しい時期らしく、会社に泊まることも少なくない。
………本当に仕事なのだろうか。
一度頭に浮かんだソレは、じわじわと私を支配してゆく。
あぁ、また悪い癖が始まった。
考えては、いけない。
そう自分に言い聞かせても、不安が広がってゆくのを止めることはできなくて。
脳裏に浮かぶのは悪い事ばかりで。
私なんかよりもずっとキレイな人と会っていたら…?
私よりその人を選んだら…?
もう、ココに帰ってきてくれない…?
そう思うと、
本当にもう帰って来ない気がして。
「拓海…?」
口に出すと、また「独り」が深まった。
独りになるのが恐かった。
拓海を失うのが恐かった。
だから、必死で名前を呼んだ。
「拓海…っ」