幸せの味。-2
床に座りこんで、目を瞑って、耳を塞いで、
「……拓海…っ」
何も見えないように、聞こえないように、
拓海しか考えられないように、
「たくみ…っ」
彼が、戻ってきてくれますように。
「拓海っ、たくみっ、たくみッ」
瞬間。
私を暖かい何かが包んだ。
そして、いつもの香りが鼻をくすぐる。
「また泣いてたの?泣き虫だなぁ」
耳元で聞こえる優しい声に安堵し、同時に自分の頬が濡れていることにも気付いた。
「帰ってきたらすげー呼ばれてるからびっくりした」
抱き締めたまま彼は話す。
「不安にさせてごめんな」
そう言って、優しくキスしてくれた。
どうやら仕事は片付いたらしく、
「こんなんじゃもう外泊できねぇな」
と笑って言っていた。
私にとっては笑い事じゃないんだけど、ただ嬉しくて、
「コーヒー入れるね」
と、返事も待たずにもう一つのカップを出して、さっきまで独りきりだったカップの横に並べた。
それから一緒に飲んだコーヒーは、
幸せの味がした。