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「その時に引き取った女の子が香澄さん、ということで間違いありませんか?」
北条が問いかけると、
「前の園長からはそう伺っています」
「それでは香澄さんのご両親についてですが、現在はもう亡くなられているということで、こちらも間違いありませんね?」
「誰がそんなことを?」
「香澄さん本人の口から聞きました」
この台詞は五十嵐が告げた。
「まさか。だってその子の母親からは、こちらの施設宛てに寄付金が毎年のように届いているんですから。金額はわずかですけど、その子がここを巣立っていった翌年からずっとです」
一体これはどういうことだと、五十嵐は北条と顔を見合わせた。
先輩刑事の表情は、それほど意外そうな様子でもなかった。
「香澄さんの母親から届いたというその郵便物を、ぜひ拝見したいのですが」
言いながら北条が手指を揉んでいると、すでに準備してあったのか、女性職員はバッグから茶封筒を取り出して刑事に手渡した。
確認してみると、裏面の住所のあとに『三枝伊智子』とある。
花井香澄の旧姓が三枝(さえぐさ)だということをそこで知った。
「父親のほうは?」
五十嵐が尋ねると、職員は首を振った。
かと思うと、
「そういえば、一つ思い出したことがあります」
大げさに目をぱちくりさせた。
「三枝香澄さんは、白雪姫にとても強い興味を示していたそうです。と言っても、この施設で行われた演劇の白雪姫のことですけど」
「白雪姫?」
北条は瞬時にアンテナを張った。
「ええ。普通ならもう白雪姫なんかは卒業している年頃なんでしょうけど、彼女の中の白雪姫は、かけがえのない永遠の存在だったようです」
そこまで聞き終えると、北条は顎をさすりながら考え事に耽った。
ぴんとくる答えが浮かびそうで、その都度うんうんと唸っている。
そんな時、北条の携帯電話に新たな知らせが入った。
それは意外にも、沢田透が出頭したという内容のものだった。