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複雑な思いを抱えたまま、二人は建物の入り口へと足を運ぶ。
そこのドアがゆっくりと開き、女性職員が出迎えてくれた。
あらかじめ連絡してあった通り、面会室で話をすることになった。
四十歳くらいの職員の容姿には飾り気がなく、どこにでもいる主婦のように見える。
子どもが二、三人いてもおかしくないなと、五十嵐は余計な詮索をした。
「この写真の女性が、今の花井香澄さんです。現在、二十八歳になられてます」
北条は一枚の写真を差し出した。
女性職員は返答に困り果てた様子で、
「そうでしたか……」
とだけ言った。
それもそのはずだろうと、北条は写真と職員の顔とを見比べた。
彼女は花井香澄とは面識がないのだ。
「前の園長から聞いた話というのを、我々に教えていただけますか?」
五十嵐の腰の低い口調に促されて、婦人はしんみりと頷いた。
「園長は生前、ある女の子の話をよく私に聞かせてくれました。十一歳でこの施設にあずけられたその子の両親というのが、母親はともかく、父親のほうがかなり問題のある性格だったそうです。父親はろくに働きもせずに、それでいて母親が苦労して稼いできたお金を湯水のように遣ったり、よその女性を平気で家に連れ込んだりもしていたらしいんです。それから……」
その先がつづかず、職員は膝の上で拳を握った。
のちに絞り出すような声で、
「その子は実の父親に……犯されたのです」
おなじ年頃の娘がいるのか、感情移入が尋常ではなかった。
「すみません、みっともないところを……」
詫びる女性に、北条は無償の笑みを向けた。
「かまいませんよ、我々が勝手にこちらへ押しかけたのが悪いんですから。あなたはただ、ありのままを話してくれるだけでいいのです。その内容しだいでは、間接的にではありますが、不幸な一人の女性を救うことができるかもしれない。今回のことであなたに危害が及ぶことはありませんので、どうかご安心ください」
意外なほど紳士的な態度をとる刑事のおかげで、施設の女性はようやく平常心を取り戻し、ぽつぽつとつづきを語った。
「そんなふうに、あってはならないことが実際にあったわけなんですけど、結局その出来事が引き金になって、彼女の両親は離婚したのです。もちろん、彼女は母親に引き取られました。ですが、その後の母と子二人きりの不自由な生活で、母親の寿命はあっという間に削られていくことになるのです。とうとう自分一人では娘を養っていけないと思った時、母親は最愛の家族を手放す決心をして、この施設を訪れました。ほんとうに、どれだけつらい決断だったことか、私には想像もつきません……」
この頃になると、職員の姿勢もすっかりうつむいてしまい、五十嵐は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
しかし、かけてやれるだけの言葉が何も出てこない。