―8―-1
林檎に毒を盛った魔女と、まんまとそれを利用した白雪姫。
今の自分の中には、果たしてどちらの『女』が存在しているのだろうか──。
通話を終えたばかりの携帯電話をダイニングテーブルに置いて、香澄は悩ましくため息をついた。
発信履歴には『北条』と表示されている。
夫を亡くしてからというもの、自分を取り巻く環境は目まぐるしく変化しているというのに、その中心にいる自分だけが取り残されているようで、香澄は言いようのない孤独を感じていた。
通夜や告別式こそ気丈に振る舞っていたのだが、初七日法要を終えた頃になると、夫の遺骨を前に物思いに耽ることが多くなっていた。
この現実を受け入れるには、もうしばらく時間が必要な気がした。
「あなたはもういないのですね……」
香澄はつぶやきながら遺影の正面に立ち、ゆっくりと膝を折っていく。
そして線香を供えて手を合わせると、すうっと立ち上がり、両肩を抱きすくめるようにして着衣を脱ぎ落とした。
黒のワンピースの次に、おなじく黒いスリップを、さらに黒でそろえた下着をするりと脱いでしまう。
色白の裸体の足元で、黒い衣が重なってとぐろを巻いている。
「この痣(あざ)が消えてなくなったとしても、あの頃の自分にはもう戻れない。せっかく女として生まれてこれたのに、こんな体、誰も愛してくれないでしょうね……」
言いながら香澄は自分の腹部へ視線を流し、そこに残る醜い痣を指でなぞった。
赤紫色のそれは、ちょうど林檎くらいのまるい形を浮き上がらせている。
痛くも痒くもないが、一生消えることはないと医師からも告げられていた。
忘れたくても忘れられない忌まわしい記憶が、香澄の美しい皮膚に寄生しているのだ。
涙は、遠い昔に置いてきたつもりだった。
こんなふうに裸体をさらすことに抵抗を感じなくなるまでに、どれくらいの時間を費やしただろう。
それを思うと、抑えていた感情が涙となってぽろぽろと溢れ出してきた。と同時に、膣に微熱を感じる。
濡れている──香澄はそう思った。
指先の感覚だけで確かめてみると、ほんとうに濡れていた。
家には自分一人きりなのだ。今ここで秘め事を楽しみたいと思っている。
喪に服した身でありながら、香澄は畳の上に寝そべり、膝を立てて脚を開いた。
そしてその中心にある皮膚の花びらへ右手をやり、左手で乳房をむずむずとまさぐった。
さっきよりも息が荒くなってきている。
指の腹で乳首をころがすと、そこは銀杏みたいに硬かった。それでいて快感がたっぷり詰まっている。
あっ、と反応する自分の声に恥じらいながらも、下半身の割れ目を容赦なくこねくりまわす。
ぴちゃぴちゃと音をたてる指と陰唇、ときどきクリトリスがぷるんとわななく。
さやえんどうの豆を剥き出して、甘い刺激をあたえてやる。
しだいに敏感になり、神経が毛羽立っていくような感覚を知る。
上唇と下唇とをすり合わせて、うっとりと瞼を閉じると、実体のない人影に犯されていく場面を想像した。