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果葬 ―かそう―
【その他 官能小説】

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―5―-1

「ラーメン、おまちどお」

 白いコック帽をかぶった初老の店主は、カウンターにどんぶりを置いた。

 客の男はそれを自分の前まで引き寄せると、箸もつけないうちに、

「昔ながらの和風だしの中華そばですね」

 などと知ったふうな口を利く。

 店主はおもしろくない顔をして、

「そばじゃねえ、うちは昔っからラーメンしか出してねえんだ」

 むすっと腕組みの姿勢をとった。
 まさしく労働者らしい太い腕をしている。

 男性客はスープの中に箸をくぐらせると、そこから引き上げたちぢれ麺を一気にすする。
 そして納得の表情で何度かうなずき、立ち上る湯気の中で、うまい、うまい、と絶賛しながら食べつづけた。

 うまくてあたりまえだ、と店主は無言で次の仕込みに取りかかる。

「じつはですね──」

 客の男があらたまって言った。

「──僕はラーメンを食べに来たわけじゃないんです」

 突然なにを言い出すんだという目で、店主は男の顔を凝視した。

「少しだけ、お話を聞かせていただきたいのですが」

 そう言って男は手帳を示し、加えて北条(ほうじょう)と名乗った。

 のちに、店主の顔に焦りの色が滲む。

「それってまさか、今朝の事件のことですかい?」

「そうです。あなたの奥さんが公園で発見したという、あの全裸の女性についてです」

「うむ……」

 あまり関わりたくないのか、店主は明らかに狼狽している。

 幸いにも北条以外に客はおらず、込み入った話がしやすい状況ではあった。

「わたしが自分で見たわけじゃないから、正確なことは言えませんがね」

 そう前置きしてから、ラーメン屋の主は渋々といった感じでしゃべり出した。

「うちの女房がね、いい歳してるくせに若い恰好でウォーキングをやるわけですよ。何が楽しくてそんなことをやりはじめたんだか。それがねえ、何をやっても三日坊主だったあれが、めずらしくつづいてるじゃないですか。わたしに言わせれば──」

「お話の途中、すみません」

「はあ……」

「その部分は結構なので、今朝の状況だけ聞かせてください」

 北条が申し訳なさそうに口を挟むと、空気の読めない店主はきょとんとした。
 そして中空に漂わせていた目をひらめかせ、話のつづきをした。

「そうそう、そのウォーキングコースの途中に、ちょうどあの公園があるようなんです。んで、不法投棄っていうんですかね、壊れた電化製品に混じって大きなゴミ袋が放ってあったとかで、その中身を確かめたわけですわな」

「そうしたら中から全裸の若い女性が出てきた、ということですね?」

「はあ、女房はそう言っておりました」

「それは何時くらいの出来事でしたか?」

「どうでしょうな、大体5時半から6時のあいだってところですかねえ。なにせ女房のやつ、帰るなり床の間にこもってしまいまして、口を開いても曖昧なことしか言わねえんです」

「お察しします」

 北条はゆっくりと瞬きした。


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