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「ところで、被害者の女性の身元についてですが、青峰由香里という名前に心当たりはありませんか?」
若い刑事の問いに、店主は首を振った。
「それではあなたの奥さんは、被害者の女性以外に何かを見たり聞いたりしたということは、おっしゃっていませんでしたか?」
この問いに対しても、店主の反応はおなじだった。
「わかりました、ありがとうございます」
北条はスマートに手帳を仕舞った。
そこでようやく重い荷が下りたというふうに、店主は大きなため息をついた。
「最後にもう一つだけお願いがあります」
北条は右手の人差し指を立てて、相手の返事を待たずにこう繋いだ。
「餃子も一人前、お願いします」
◇
北条は店を出るとすぐに手帳を開いた。そしてそこに書かれた文字を事務的な目で追う。
被害者となった女性は、青峰由香里、二十五歳の専業主婦である。
全裸の状態でゴミ袋に入れられ、公園に放置されていたところを近所の主婦が発見する。
命に別状はなく、目立った外傷もとくになし。
陰部に乱暴された痕跡があり、膣内には複数の男性のものと思われる精液が残留していた。
ゴミ袋の中身については、被害者自身のほかに、辱めに使われたであろう道具類が多数見つかっている。
ごく一般的なバイブレーターやディルドのほか、小型ローター、シリンジ、首輪とリード、被害者の私物といった具合である。
さらに被害者の手足には玩具の手錠がはめられており、口は猿ぐつわで塞がれていた。
警察側は強姦事件と断定し、犯人捜索ににんげんを充てるつもりでいたのだが、この件に関して事件性はまったくないと言った人物がいた。
ほかでもない、それは被害者である青峰由香里本人の口から出た台詞だった。
彼女はなぜ嘘をついたのだろうか──北条は目をしかめて、冷静に次の手を探っていた。