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「そのツモ、ちょっと待った」
由香里の対面に座っていた髭面の男が、唐突にそんな言葉を発した。
その両脇でさっきまで白旗を振っていた二人にしても、この場面では口のはじに気味の悪い笑みを浮かべている。
由香里は事態を呑み込めずにいた。
「あたし、なにもしてませんけど……」
気圧されないように精一杯声を張り上げたつもりが、つい力みすぎて変に裏返ってしまった。
「それじゃあ、これを見てもまだ白けつづけるつもりか?」
この言葉を合図に、由香里以外の三人が同時に牌を倒して、手の内を明かした。
一見してなんの意図もない、ただの出来損ないの手に見えたが、しかしそこには、あってはならないものが確かに存在していた。
「お姉さんが今ツモった一筒(イーピン)、俺らが四枚とも抱えてんだよ。イカサマしたよね?」
「そんなこと……」
言ったきり、由香里はわなわなと口ごもってしまった。
鴨にも葱にもなるつもりはなかったが、言い返すべき文句が何一つ思い浮かばなかったからだ。
「由香里ちゃん、だったよね?ここらではっきりさせておこうよ」
右側の茶髪の男が言うと、
「その体のどっかに、ほかの牌も隠してんじゃねえの?たとえばそうだなあ、下着の中とか」
示し合わせたように、左側の猪みたいにずんぐりした男もにやつく。
由香里は反射的に立ち上がり、口をかたく結んで目を潤ませた。
そして恐る恐るまわりを見渡してみて、そこに居合わせた全員の視線が、もれなく自分に注がれていることに気づく。
罠だと直感した時にはもう手遅れだった。
都合のいい女を餌にしようという陰気な空気に包まれる中、博打の勝者になるはずだった由香里は、強面(こわもて)の三人に連れられて雀卓をあとにした。
くびれた腰からぶら下がったラビットファーのストラップが、寂しげに尻尾を振っていた。
◇
「ほんとうに、あたしはなにも知らないんです。嘘じゃありません」
事務所と思われる部屋に入るなり、由香里はうつむき加減にそう言い放った。
そして部屋中に配置されている豪華な調度品を一瞥して、学生時代に一度だけ入ったことのある校長室みたいだなと、どうでもいい感想を抱いた。
しかし由香里を取り囲んでいるのは良識のある聖職者ではなく、狂犬のごとく欲望を剥き出しにした浮浪者たちなのだ。
「かわいい顔してりゃ、なにやっても許されると思ったのか?」
と髭の男。
「ずるいことなんて、素人のあたしにできるわけがないじゃないですか」
「素人の人妻か、こりゃいいや」
と茶髪の男が由香里に歩み寄る。
それを避けようと後ずさりした背中に猪男の贅肉(ぜいにく)が触れて、さらには両肩を抱きすくめられてしまう。
「いやっ、はなして!」
由香里が足をじたばたさせると、ベロアのミニスカートからのぞく白い太ももが、彼らの生まれ持った生殖器をいたずらに刺激するのだった。