The change!〜少女の願望編〜-2
「ちょ……こんな明るいうちから!?」
「ねぇ……嫌?」
「嫌ってわけじゃ……ない、けど……///」
湿った吐息で誘えばこの男は必ずかかってくる。
私が望に弱いように、望も私に弱いのだ。
求められれば答えたいと思ってしまう。
土曜日、午後二時。
すっかり行きつけになったホテルに望を誘い込み、部屋を注文する手続きをとらせている間、コートに忍ばせた薬の小瓶をぎゅっと握り締めた。
朝と夜には吐く息の白いこの季節。
日が落ちるまで、制限時間は三時間といったところか。
そうして、薬を渡されるときに朋美に言われた事を頭に思い浮べる。
……――
い〜い?バイトなんだからここはきっちりやってよ?
一つに、薬を飲んでから効果が現れるまでの時間をストップウォッチで計測すること。速効性だから、1分いかないうちに変化するよ。皮膚から吸収されるから飲まなくても口の中で転がせばOK。
二つに、使用してからのことを出来るだけ詳細にレポートに書くこと。
これだけ守ってくれりゃ、引き替えに報酬だすってさ。それじゃ、頑張ってね♪
――……
「ひとみ?」
「っわ!ι」
ひょこっと覗き込んできた顔に驚いて大げさなほど身体を動かす。
「なにぼーっとしてんだよ……ほら、部屋とったよ///」
初めてでもないのに照れ臭さに顔を背けてしまう望が心底可愛い。
ある意味病気かもしれない。でも、素直に思うことなのだ。
部屋に入り、コートを脱いで身体を身軽にする。
いかに早く、冷静に、納得させて、コトに及べるか、そこが勝負のカギと昨日から心得ていた。
そりゃ望だっていきなり身体が女になったら下手すりゃパニックを起こすだろう。
ちゃんと説明しないで力で押し入ったら、それはレイプと同じで失礼だもんね。
そんなのは肉体も精神も悲鳴あげる辛さしか与える事はできない。傷つけるのが目的ではないのだから。
薬を手に持ち、昨夜作ったシナリオをシミュレートする。完璧……なはずだ。
一つ深く呼吸して、エンターキーを押した。
まずは……先手必勝!
薬を取り出して蓋を捻り開け、一息に口に含んだ。
思っていたような苦痛の味もなく、仄かに甘味すら感じられる。
カチッと左のポケットに手を突っ込んでストップウォッチを動かした。
「望……」
そのままの状態ですっと身体を寄せて望に口付ける。
拒まれることはない。
つんつんと舌先で唇をねだるよう突けばぬるんとした望の舌がそれに答えて入り込んできた。
そのまま咥内を蹂躙する舌。
皮膚吸収なら、これで十分効いてくれるはずだろう。
「んっ!」
ニヤリ、と思ったのも束の間、ザラリと舌で歯列をなぞられゾクリと身体が反応した。
どうやら向こうも本気になってきたらしい。
力が抜けそうになる私の身体をそっと支えて誘導し、ベッドに押し倒してより深く貪り始めた。
止まることを知らない舌は呼吸すらさせてくれないほど暴れまわり、歯列の間を行ったり来たりする。
キスだけで、この先を期待する身体はひくりと下腹部に熱を宿らせた。
……が、突如ピタリと動きを止めてしまった。
解放される口。
「……どうしたの?」
「気のせいかもと思ってたけど……なんか、身体が異常に熱くて……君も……ほら……」
キスに夢中で気付かなかったが、見れば私も望も前髪が貼りつく程びっしょりと汗をかいていた。
始まった、と私は確信した。カチリとストップボタンを押し込む。
一つ、課題終了。
そんなことも知らない望は「風邪かなぁ?」と首を傾げていた。
「違うよ」と否定しようとした瞬間、
――どくん!!!
「あ、ああぁ!!」
「ひとみ!!?」
心臓が一際大きく跳ねた。それこそ身体が数?浮き上がるくらいに。
一拍遅れて望も苦しそうに一声唸り、脇に倒れこむ。
身体の中に手を突っ込まれて内蔵をぐちゃぐちゃにかき回されているような気分だった。
心臓はバクバクと全力疾走後のような動きを続けている。
全身からひどい汗をかき、シーツをビショビショに濡らした。
心臓と共に、ビクン、ビクッと跳ねる身体。
――死んだら、絶対、絶対、絶対呪ってやるからね、朋美ー!!
内心で叫ぶと同時に、意識をもってかれた。