スパイラル-25
冴子はもう拒むという選択肢がないことを悟った。このまま悪辣な仕掛けをされたまま営業部の男性陣の前に立たされ、淫靡な責めを受けながら仕事に集中できるだろか。
万が一にでも卑猥な玩具を装着しているのが判明しようものなら会社を辞める程度ですむものではなかった。女として生きてゆくことすら、ままならぬ事態になりそうだ。
竹中が、さりげなく背中を押すなか化粧室を通過すると、冴子の淫責回避の余地はなくなった。あとは竹中の慈悲にすがるしかなかった。
会議室の手前で立ち止まった冴子は憐みを乞うように、すがる目で竹中を見た。
「遅刻だな。早く入れ」
冷たい宣告を受けて、暗澹たる気持ちを振り切るように会議室に入っていった。
「申し訳ございません。大変お待たせいたしました」
「おいおい顔色がすぐれないようだね。なんだか目も潤んで風邪でもひいたのかね」
「いえ……ちょっと」
「スカートを短くし過ぎて風邪ひいたんじゃないか」
男性社員のセクハラまがいの発言に笑いが起こった。普段の冴子ならきつい目でひと睨みするところだが、その一言で張りつめていた気持ちが和んだ。
その時後方の入口から竹中が入ってきた。ガムを噛みながら大股で歩きながらドッカと腰降ろす不遜な態度の部外者の侵入に、数人の社員が顔を寄せてヒソヒソと何かを囁き、顔をしかめた。その目はあきらかに厄介者として竹中を見ている目であった。
竹中の出現で、再び絶望的な気持ちに戻りそうになるのをこらえて冴子は気持ちを切り替えて演習を始めた。
「それでは始めます」
社員達の拍手に湧きかえる会議室に冴子の気分は高揚し順調にすべりだしをした。話始めるといつものなめらかなトークが冴え、竹中のことなど全く忘れて集中できた。
「――わが社の分析装置の欠点は解析時間の長さと解析中のモーター音の大きさであり……」
スタートから30分が過ぎた時、微かに振動が伝わり始めた。
「――そのモーターを中にとりこむようにしたところ、振動を外にもらさず音を抑えること成功し……」
ブウウウウ……
クリトリスがイボイボに当て込まれて、もがきだした。
「ウグッ……。静音とよべるレベルにまで落とすことに成功しました」
チラリと竹中を見ると冴子を責める時の、蛇のような目のままで口元が嗤っている顔になっている。冴子が、恥辱の姿態を晒し、赦しを乞いながら欲情の頂点へと無理やり押し上げられていく時のサディスティックな嗤い顔だ。
あらためて見回すと、こうして淫靡な責めを受けている自分が大勢の男性社員から観察されているような気分になってゆく。端正で毅然とした自分が歪まされてゆくような気分で、破廉恥な仕掛けが露呈する危うさまでが責めの一つとなって冴子をさいなんでいるようだ。
竹中が上着のポケットに手を突っ込み、ゴソゴソと探っている。振動が強くなっているようだ。着実に電波は届き、淫振に腰がふれてしまう。その微かな動きに男達の目が注目しているような錯覚になり、恥辱が悦楽を倍増してしまう。
唇を舐めた竹中がポケットからコントローラーを取出し、あからさまに操作を始めた。一番後ろのオブザーバーは既に営業部の興味の対象からはずれて、自由に冴子をいたぶることができた。
「モーターの回転を弱くすることなく……うっ!」
膣壁をゆっくりと玩具が擦りだした。少しでも悦びを引き出そうときつく締めつけている内壁の中で、ズリズリと卑猥な胴体を回転させている。
「うぐっ!」
口に手を当てたまま冴子は耐え忍んでやり過ごそうとしたが、その急激な変化に驚いた男性社員の表情すら、痴態を見逃すまいと身を乗り出しているストリップ劇場のあさましい観客に見えてしまう。
(こんなに大勢の前で……私は、私は……!)
冴子の失態をあざ笑うように竹中がいたずらっ子のようにコントローラーをいじくり回しているのが見える。
イボとイモムシが暴れ回り冴子は回転の弱まったコマのように立っていることすら危うくなっていった。壇上からよろけ転びそうになり、気力を振り絞って「申し訳ございませんが体調が不良により、30分ほど休憩させていただきたいと思います」と辛うじて難を逃れた。
何人かの社員が驚きと心配で立ち上がりかけた時、竹中が社員達を押しのけ出てきた。
「大丈夫か。俺が介護してやる」
何か言いたげの営業部の社員を睨みつけ、有無を言わせぬ態度で冴子に肩をかして会議室を出ていった。
冴子は口に手を当てたまま竹中に肩を入れられて運ばれるままに階段を昇って行った。途中何人かの社員に驚きの表情で見られたが、そんなことを気にしている余裕などなかった。冴子の中の玩具どもはMAXパワーで暴れ回り、沸きあがった欲情をふきこぼしそうになるのを我慢するのがやっとだった。
屋上へ続く鉄のドアをあけ、外側から鍵をかけた竹中はフェンス間際で冴子を突き飛ばした。冴子はハイヒールの鋭い音をたてて、よろめく身体で網状のフェンスにしがみついた。