コックリング-1
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翌日、何事も無かったように出社した冴子だったが内心、小宮山のことがきになっていた。小宮山のデスクには出社した様子がなかった。
(ちょっとやり過ぎちゃったかしら)
昼近くなって営業部の数人が冴子のデスクの後ろを会話しながら通り過ぎていった。
「まいったなぁ。今度の顧客の特注品のポンプどうする? 小宮山さん、階段から転落して一か月の重傷だってさ。既製品で間に合わせるしかないよな。あ〜あ、たかがポンプ屋、されどポンプ屋だな」
小宮山が冴子のことを隠していることを確信できて、全てが解決したことに喜んだ。
数日が経つと小宮山の一件のことなどすぐに忘れ、冴子はバリバリと仕事をこなしていた。冴子の元には数人の部下の一人として、かつて冴子を口説こうとした谷俊介もいた。その俊介の営業成績が最近ふるわない。それどころか凡ミスによる顧客からの苦情も入ってくることが目立ってきた。
何度か呼び出して見えない所で注意してきたが、一向に改まる様子がなかった。大事な顧客へのプレゼンの席で資料を忘れるという大失態をおかし、遂に冴子の怒りが爆発した。
冴子は俊介をデスクに呼び出し、目の前に立たせた。
俊介はさして気にもしていない様子で軽い調子で現れた。
「何かお呼びでしょうか?」
「何回注意したらわかるんだ、このボケがあっ!」
いきなり大声で叱責をあびた俊介はあまりの驚愕に2,3歩後ろに後ずさった。俊介だけでなく、いろいろな会話で溢れていたフロアー全体がシーンと静まり返った。電話の途中だった社員だけが申し訳なさそうな顔で声のトーンをおとしてしゃべっている。まるで社員全員が叱りを受けたような様子になった。
「お前の頭には女の尻しかないのか! 少しはまともに仕事したらどうなんだ!」
「も、申し訳ございません……」
「今度のプレゼン、しくじったらただで済まないわよ」
「頑張ります……」
「指でも詰める?」
「ひっ……!」
冴子から目を逸らせ、微かに震えているようだ。衆人の中で叱責を与える懲罰に震えあがる俊介を見ているうちに、冴子の心の中で、えも言えぬ快感が渦巻きだした。
冴子は血にまみれた小宮山の顔を思い出していた。苦痛に顔を歪ませて身悶えしながら赦しを乞う姿と俊介の怯えた姿が重なる。俊介の細い首に巻かれたネクタイをこの場でゆっくり絞めてやりたい衝動にかられた。少しずつ喉を絞められた俊介が苦しげに舌を出す顔が目に浮かんだ。
真っ赤になってうなだれる俊介を見ているうちに冴子もモジモジしてきた。
(――濡れてきた……!)
「よろしい。今度の頑張りを期待するわ」
そう言い残してさっさと席を立ち、静まり返るフロアーから飛び出した。硬いヒールの靴音を響かせ足早に化粧室に向かう。誰もいないことを確認してから個室に入り、ハンカチをロール状にして自ら猿轡にした。口元から荒い息を漏らしながらグッショリと濡れたバギナに細い指を当てて往復させる。美しいネイルが施された指がしっとりと濡れた肉の狭間に埋もれて見えなくなっていった。