第一章 ポンプ-22
しばらく呆然と座り込んでいた冴子は身支度を整えると個室から出ていき、化粧台の鏡の前に立った。しばらく鏡の中の自分を見つめていたが、いきなり大きな音をたてて、うがいをし始めた。水を飛び散らせ何度もうがいをした後、今度は手ですくった水を大量に飲んだ。水で腹をいっぱいに満たすと口に指を突っ込み嗚咽する大きな音の後、洗面器に大量の水を嘔吐しだした。
トイレに入ってきた女子社員が、冴子の鬼気迫る面相と凄まじいありさまに悲鳴をあげて逃げて行ったが、冴子は構わず嘔吐を続けた。
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夜の社屋に入るのは冴子にとって初めてのことだった。金曜日に残業などする人間など皆無であり、IDカードさえ読み取り機にかざせば誰でも侵入することは可能だが、週末の夜11時にわざわざ出社する酔狂な者などいるわけが無かった。孤城と化した社内は非常灯だけが冷たい光を放っている。
小宮山からの“督促状”が届いたのは昨日のことだった。帰り前の一服を終え、自分のデスクに戻ると二つ折りのメモが無造作にパソコンに置かれているのを発見した。メモには金曜日の夜11時に宿直室に来るようにとだけ書かれてあった。署名がなくてもその独特の金釘文字を見れば小宮山からのものとすぐに判断できた。
(ああ……私は、また小宮山に凌辱されるのだわ)
小宮山に対する嫌悪感と同時に冴子の中で餌食にされるモヤモヤした陶酔感がわき上がり下半身がまったりとした重みにつつまれる。このままズルズルと呼び出しに応じてゆくうちに、小宮山に身体も脳も洗脳されてしまうのだろうか。バカにしていた肥満体にかしずく自分など想像したくもないが、すでに被虐心という麻薬の中毒になりかけている。冴子の葛藤は決着をみないまま金曜日を向かえた。
宿直室は社屋のはずれにあった。暗い通路を歩きながら冴子は子供の頃に見た罠にはまるアリの姿を思い出していた。蟻地獄という恐ろしい名前を命名された昆虫は砂地にすり鉢型の罠をつくり、その底で微塵も動かずにアリが足を滑らせるのをジッと待っている。ひとたび通りかかったアリが罠に転げ落ちると鋭い針のような牙で捕まえようとする。アリが砂地の斜面を駆け上がろうものなら、牙をシャベルに変えて砂をアリの上から振りかけて再び底へ転落させる。何度も脱出をはかるアリはやがて力尽きて牙に噛みつかれ、すり鉢の奥底へと引きずり込まれ時間をかけて体液を吸い尽くされてしまう。
冴子はすでに小宮山に何回か体液を吸われたアリのようなものだ。捕まる度に体液を吸われムクロとなりかけ、命からがらに逃げ出したが、今から宿直室という小宮山の罠にはまって本当に体液もろとも魂まで奪われてしまうのだろうか。
砂の中に引きずり込まれ動けなくなったアリから思う存分体液を吸い取る蟻地獄と、縛められた冴子の尻に爪を立ててバギナから愛液を啜る小宮山の姿がダブり倒錯した欲情につつまれてゆく。
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「いや! 離して!」
「うはははっ! 冴子、もう濡れているじゃないか」
扉の後ろに隠れていた小宮山は、恐る恐る入ってきた冴子に後ろから覆いかぶさるように抱きついてスカートの中に手を突っ込んだ。ストッキングごとショーツを摺り下げて湿りを帯びたバギナを確認して子供のようにはしゃいでいる。
「やめてっ! 離してください!」
小宮山の手をどけようともがくが、さすがに男の力を上回ることなど不可能なことだった。
「何がやめてだ。もうこんなにマンコが涎を垂らしているくせに、この変態牝犬め」
「クッ……」
宿直室が近づくにつれ冴子は今からされるであろう淫責にバギナが蕩け出し、どんどんと身体が重くなってゆくことを感じていた。宿直室に着いたら、いかに小宮山に悟られずにいるかを考えていた矢先に先回りされてしまった。
前かがみになって抵抗する冴子の朱に染まりつつある顔を、後ろから覗きこむように顔を近づけて小宮山が嗤っている。しとどに濡れた秘肉の合わせ目をガサツな指が上下に動き回り湿洞をほじくる。