君とサヨナラする日1-6
久留米も芽衣子がチーズを苦手なのを知っていたから、なぜ彼女がこれを頼んだのかを不思議に思っていたらしい。
「お前、注文間違えたんじゃねえの?」
奴は首を傾げながら、芽衣子にそう訊ねた。
「いいのいいの。
好き嫌いを克服しようと思っただけ」
しかし、芽衣子は至っていつも通りの話しぶりで答えるだけだった。
だから俺も芽衣子の言葉を鵜呑みにしていたのだが、彼女は一口一口に気合いを入れるように食べては、あまり噛まずに飲み込んでいて、とても味わっているようには思えない。
「なあ、無理すんなよ。
オレのと交換するか?」
そんな芽衣子を見かねた久留米は、そう言って自分の皿を指差した。
「大丈夫だって、美味しいもん。ほら!」
そう言って、彼女はチーズの乗ったハンバーグを口に運ぼうとしたが、勢い余ってそれはポロッと箸から滑り落ちた。
そして芽衣子が着ていた白いワンピースの太ももあたりに、一口大のハンバーグがちょこんと乗っかってしまった。
「あーっ、最悪! 落としちゃった」
芽衣子は急いでお絞りを握りしめ、ポンポンとスカート部分についたハンバーグのソース汚れを浮かそうとしていた。
芽衣子のドジっぷりに久留米は呆れたように笑いながら、
「そういえば、お前そのワンピース着るの久しぶりだなあ」
と、懐かしそうに目を細めた。
久留米がそうポツリと呟いて初めて、芽衣子の服が、久しぶりに袖を通した懐かしい服であることに今更ながら気付いた。