君とサヨナラする日1-3
芽衣子はカンカンと軽やかな足取りで階段を駆け降りて行く。
そして階段を降りた先には、煙草を吸いながら車にもたれかかる久留米の姿があった。
芽衣子が嬉しそうな顔で久留米の元へ近づくと、奴は小さく手を上げ、持っていた煙草を携帯灰皿に押し当てて火を消した。
「ごめん、少し仕事が長引いた。待ったか?」
「ううん、全然」
「んじゃどうぞ」
さり気なく久留米は助手席のドアを開けた。
芽衣子が小さくお礼を言って車に乗り込む。
それを見届けてから、すぐさま俺も車のドアをすり抜けて、二列目に陣取った。
デートの邪魔をしてるようで気がひけたが、芽衣子と一緒にいられるのはあとわずかなのだ。
――ごめんな、久留米。
でもお前はこれからたくさん芽衣子と一緒に居られるだろ?
だから今日だけ俺も一緒させてな。
そう心の中で呟きながら、運転席に座った久留米に小さく謝った。
少し遅れて園田も車に乗り込んでくる。
この車は八人乗りだから三列目も空いてるのに、園田はなぜか俺の隣に座ってきた。
「お前、せめえんだよ。後ろ行けよ」
「だって、前の二人がイチャイチャしたら手島さんがさみしいかと思って。
肩くらいなら貸してあげますからね」
「バーカ、中年男の肩なんて死んでも借りるもんか」
「あなた、もう死んでるんですよ?」
園田がにやついた顔を俺に向けたので、
「この揚げ足取りが!」
と、園田の頭をスパンと叩いてやった。
そう悪態を吐いたものの、こうやって和ませてくれる園田の存在が俺にはありがたかった。
これがもし俺一人でコイツ等のデートについてまわってたら、虚しさで押し潰されていたと思う。
なんとなく俺はふざけて園田の肩にもたれかかったらコイツは、
「やめて下さいよ、気持ち悪い」
と、笑いながら俺の頭を押しやった。
「じゃあ出発するか、まずはどこ行く?」
そんな俺達をよそに、運転席に乗り込んだ久留米は芽衣子の顔を見た。
「久留米くん、お昼食べた?」
「いいや、まだ」
「じゃあ先に管理会社に鍵返しに行って、それから腹ごしらえってのはどう?」
芽衣子が元気よくそう言うと、久留米は嬉しそうに鼻の下をこすりながら、
「了解」
と返事をし、そのまま車を走らせた。
奴らも奴らで和やかな雰囲気を作りながら、デートは始まった。