君とサヨナラする日1-20
風が吹いて芽衣子の頬に髪が張り付き、彼女はその髪の束を耳にかけた。
俺があげたピアスがキラッと輝いて、それがなぜか無性に不安を駆り立てる。
「そして、連れて来られたのがここ。
自殺の名所だし、こんな薄気味悪い所になんで来るんだろって思ったけど、茂は“ここから見渡す景色が綺麗だろ?”なんてふざけて笑うだけ。
変だなって思って茂の顔をジッと見てたら、アイツ、急に真面目な顔になってあたしのこと抱き締めて、何度もキスしてきた」
「…………」
「ハッキリ言って、その頃のあたし達、キスなんてほとんどしないくらい冷め切ってた。
あたしがキスしてほしいってねだっても、“口紅がつくからやだ”とか“唇が荒れるからダメ”とか言って、あたしを突き放してばかりの茂が、その日に限っては何度も何度もキスしてきてくれたの。
すごい嬉しかったけど……、これで最後のデートだからかな、って思うと少し淋しくもなった」
芽衣子は顔こそ微笑んでいるけれど、淡々と話すその様子がまるで心の持たない人形のようで、それを見てる俺はさっきから鳥肌が止まらなかった。
久留米も久留米で強張った顔のまま、ただただ立ち尽くしているだけ。
緊迫した空気のまま、さらに芽衣子はあの日のことを話し続けた。