君とサヨナラする日1-2
この部屋で久留米と三人で酒を飲みながら騒いでいたら、隣の部屋から壁をガンガン蹴る音が聞こえてきて、みんなで気まずそうに顔を合わせながらも小さく笑い合った。
芽衣子と恋人になってから初めてこの部屋に泊まった日、お互い初めてでもないくせに、なんだか照れくさくてぎこちなくて、変に緊張しながら抱き合ったっけ。
芽衣子の作った下手くそな料理に文句言いながらも全部食べたり、俺が観ていたナイターを、芽衣子は“つまんない”と言って無理矢理お笑い番組にチャンネルを替えたことからちょっとした喧嘩に発展したこともあった。
浮気がバレて逆ギレして、芽衣子に何度も手をあげたことは後悔してもしきれない。
俺が愛していたのは芽衣子だけだともっと早く気付いていたら、今もこの部屋で二人で過ごせていたかもしれないのに。
それでも、俺達はたくさんの大切な思い出と後悔が残るこの部屋を出て、それぞれの道を歩いて行かなくてはいけないのだ。
「こちらこそ、今までホントにありがとな」
芽衣子には届かないけれど、俺は彼女に数え切れないほどの感謝の気持ちを込めて礼を言った。
芽衣子はゆっくり頭を再び上げ、小さく微笑んでから玄関の扉を開け、ガチャリと錠を落とした。
その音だけが、いつまでもいつまでも俺の耳から離れなかった。