君とサヨナラする日1-13
しかしその瞬間、芽衣子は激しくむせ込んでしまった。
「あー、ほら、だから言っただろ?」
久留米は慌てて芽衣子から煙草を取り上げようとするが、彼女は煙草を持った手を引っ込め、もう片方の手のひらを久留米の方に向け、奴を制した。
「大丈夫、久しぶりだからクラクラしただけ」
涙目になりがらも彼女はそう言って、また煙草を口にくわえる。
そして何度か煙を吸い込むうちに慣れてきたのか、芽衣子は次第にむせなくなってきた。
口笛を吹くように煙を細く吐き出す芽衣子。
そして次に芽衣子は、
「あー、食後の一服って最高だよね」
なんて得意気な顔を久留米に向けた。
そんな芽衣子に俺も久留米も呆れ返ったように苦笑いになるだけだった。
俺が煙草を吸うのすらあまり快く思わなかった芽衣子が、煙草を吸っているなんて、なんだかひどくちぐはぐに見える。
そして次の瞬間、俺は自分の耳を疑った。
「でも、セブンスターは合わないんだよね。
やっぱりマルボロじゃないと」
マルボロなんて吸ったことのない芽衣子が、彼女らしからぬ口調でそう言った時、俺もそして久留米もハッとした顔になって彼女の顔を見た。
芽衣子は親指と人差し指で煙草をつまみ、灰皿の上で煙草をその二本の指でこすり合わせるようにして灰を落とした。
「芽衣子……」
久留米が呆然としたように彼女の名前を呼んだ。
おそらく、コイツも気付いている。
久留米にもらい煙草をしておきながらケチをつける口調、口笛を吹くように煙を吐き出す仕草、独特だと言われる灰の落とし方、全てぎこちないながらも芽衣子は俺の真似をしていたことに。