君とサヨナラする日1-12
一方芽衣子はと言うと、久留米が煙草を吸う様子をぼんやり眺めていた。
煙草を吸わない人間にしてみれば、一緒にいる人間が一服している時が退屈で仕方ないらしい。
やはり芽衣子は少し退屈そうに、睫毛をふせて久留米の煙草に視線を落としていた。
セブンスターのボックスの上にコンビニで売ってるような緑色したライターがちょこんと乗っている。
俺が手を伸ばせば届くそれは、芽衣子がぼんやり見つめているから、隙を見て一本かすめ取ろうとしても踏み出せない。
久留米は芽衣子に煙がかからないようあさっての方向を見ているから、失敬するなら今しかチャンスはないのに。
芽衣子、トイレにでも行ってこいよ。
俺はそう悪態を吐きながら芽衣子を見た。
すると彼女はいきなり、テーブルの上に置いていた久留米の煙草に手を伸ばして、
「ねえ、一本ちょうだい」
と言った。
久留米だけじゃなく、俺までがギョッとした顔を芽衣子に向けた。
「だって、お前吸わねえだろ」
「大丈夫、吸ったことないわけじゃないから」
芽衣子はニッと笑うと、素早くボックスとライターをぶんどった。
「でも、それキツいしさ」
久留米はなんとか芽衣子の手から煙草を奪おうとしているが、芽衣子はサッとその手をよけ、煙草を一本口にくわえると素早く火を点けてしまった。
口を開けたままの久留米の前で、芽衣子は少し口をすぼめながら煙草を吸い始めた。