君とサヨナラする日1-11
ならばエアー煙草で紛らわせるかと、俺は人差し指と中指で煙草を挟んだ真似事をしながら唇にあてては深く息を吐いたりしていた。
しかし、エアー煙草なんざやってみたって虚しいだけ。
吸いたい欲求はさらに深まるばかりで、俺は久留米に向かって甘えるような声で、
「なあ、久留米ー。煙草一本くれよ」
と言った。
当然ながら俺の声は届いていないから、奴はゆっくり紫煙をくゆらすだけ。
「手島さん、もらい煙草なんてみっともないですよ」
園田が俺を宥めようとするが、
「だって、俺はしょっちゅうコイツから煙草もらってたぜ?
でもホントはセブンスターじゃなくて、マルボロがよかったんだけど」
と、悪びれない俺の様子にやがて呆れたように大きなため息をついた。
「あなた、もらい煙草をしときながら人の吸う銘柄にケチつけてんですか」
「え、そんなのしょっちゅうだけど?
俺がコイツの煙草にケチつけんのはある意味お約束なんだよ。
なあ、久留米」
開いた口がふさがらない状態の園田をよそに、俺は久留米の煙草を吸う姿に向かって“なあ”と同意を得るように奴の顔を覗き込んだ。