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「運命の人」
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「運命の人〜出逢い〜」-1

気が付けば、見知らぬテーブル、机、ベットなど、見覚えのない部屋に自分一人がいる。制服は着たままで、ネクタイが多少乱れていた。
カーテンは閉めきってあって、間から射す陽の光りのみが唯一視覚を助けてくれる。
そして、現時点において上半身は縄で縛り付けられている。身体が不自由な上に、圧力がかかるのはそのせいだった。辛うじて足元を見ると、足首までもが縛られている。
これで恐怖に陥らないわけがない。目を固く閉じて、目の前にある現実を認めたくなかった。
私が察するには、誘拐または拉致なのだとしか思えない。思い出してみても、同じ記憶にしかたどり着かない。
私、夏木由里は高校二年生。勉強も運動もあまり出来ないし、目立たないような存在に近い。ただ、家事が好きなくらい。
そんな私が学校から帰宅途中、地元の駅から降りて友達と別れたとこまでは思い出した。そこから先は思い出せない。
ただ、今この状況を改めて把握しようとして、不思議に思うことが一つ。叫ばれても構わないのか、口を塞ぐ物がなかった。悲鳴を上げてしまえば誰かが助けてくれるかもしれないのに。
そうでありながら、声を上げる気力さえ失っていた。この部屋に私一人しかいないのなら、絶好のチャンスだと言うのに。
あまりにもひんやりした空間に閉じ込められているかのようだった。余計に心細さは酷くなる一方。
何よりも、今は置かれている現実から目を逸らしたかった。
私はしばらくの間、身動きが取れないままそこにいた。
何故だか、ふとおばあちゃんとの会話が蘇ってきた。蘇ったというよりは、意識がそちらに逃げ出したのかもしれない。

数ヶ月くらい前、夏のある一時のことだった。久々におばあちゃんの家に遊びに行って、他愛のない話をしていた。
畳の部屋で、低くて広い漆黒のテーブルの上には麦茶、私とおばあちゃんがテーブルを挟む。蝉の鳴き声の暑さを感じるものや、風鈴の涼しげな音が響く。

「ところで、由里ちゃんは彼氏出来たのかい?」

おばあちゃんがそう切り出して来た。私はそれに、ううんと首を横に振りながら答えた。
するとおばあちゃんは、そうかいと笑いながら繰替えし言う。あまりいい気分がしなく、何がおかしいのと聞いた。
そして、おばあちゃんはこう答える。

「いやぁ、なかなかいい出会いがなくて不満に思ってるんじゃないかってさ。由里ちゃんの運命の人は、簡単に出会えない程に価値のある人間じゃないかね。」
「そうかな…。」

嬉しい言葉だけれども、私にはもったいない言葉だと思った。相槌も、遠慮がちなものになってしまう。
きっとそうさとおばあちゃんが続ける。

「その相手にとっても、運命の人はあんたなのだよ。穏やかに見えても、深い深〜い愛情を築けるに違いないさ。」
「でも、いつも彼氏が出来ないまま失恋しちゃうんだよ?いつになったら会えるのかなぁ?」
「なぁに、何も自分から追っ掛けなくとも、由里ちゃんに想いを寄せる人だっている。人間、感じ方は違うから皆が振り向かない子でも、人によってはそれなりの良さが目に付くことだってあるんだ。」
「私の良さ…かぁ。」
「気長に待ちなさいな。必ず出会えるはずだよ。」

言われてみればそうかもしれない。
今までの私は、惚れっぽい性格のせいか好きな人がたくさんいた。それも、切り替わりやすかったり、迷ったりして。けれども、恋の数とは対象に付き合った人は全くいなかった。


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