「運命の人〜出逢い〜」-2
私の良さと言っても、自分ではよく分からない。本当に他人から見つけてくれることなんてあるのかなんて、正直不安かも。
そう感じていたあの日のことを思い浮かべると、一粒の涙が頬を伝わる。ほのぼのとした時間に帰りたくて、すぐにあの温かみを求めて、仕方なかった。
おばあちゃんの言っていた運命の人に、会えなくなるのかなとそれなりの惜しみまで溢れ出してくる。
その時、ガチャッという音が聞こえた。明らかに玄関のロックが開く音。
きっと、私をさらった犯人に違いない。会いたくないという恐怖と、どんな人なのかという好奇心で胸がいっぱいになる。
暗かった空間に電気がつけられて、はっきりと部屋中がわかってしまう。もはや、カーテンから射す光は役に立たないものとなってしまった。
ドアが開きかけられた途端、私の中で恐怖がどっと押し寄せてきた。やっぱり怖い、そう思った。
しかし、その恐怖がずっと続くわけでもなかった。
そのドアの開き主は、私と同じ高校の制服を着ていた。それも、場違いな程に綺麗な顔の美少年だから。
恐怖はどこへ行ってしまったのか。不思議な気持ちでいっぱいだった。
男の子はネクタイを解いて、上着を脱いでいる。その時、彼の横顔で重大なことを思い出した。
私は彼を知っている。彼は登校・下校途中の電車でよく見掛ける。横顔を向けている時が多く、その時の顔を少し覚えている。見掛ける度に、可愛い顔だと思って羨ましかったりしていた。
そんな人がどうしてこんなことをするのか、全く理解出来ない。認めたくなかった。私を不自由にしている縄という決定的な証拠がありながらも、そう思ってしまう。
話し掛ける気はあるくせに、実行する勇気が出てこなかった。ただ、呆然と場違いな人物を見ていることしか出来なかった。会話もなく、沈黙の空間の中で。
机に突っ伏して顔を隠してしまった男の子の背は、辛そうなものを物語っているように見えていた。さらって行ったはずの私に何も言わずに、何を考えているのだろうか。
何かよからぬことを考えているのかと思うと、寒気がして仕方ない。一方では、本当に辛い何かを背負っているのではないかとも推測していた。
もし二つ目の方だとすれば、私にこんなことをしたことに今更後悔を感じているのだと思えてくる。どう考えてみても、冷静な気持ちになれば自分のしたことの重大さに気付いてしまう。
そして、この状況に置かれていながら、そんなことを予想する自分がお人良しだと薄々感じてしまう。
一向に顔を上げる気配もない彼を風景に、うとうとと眠気に包まれていく。次第には、目が閉ざされて意識が遠のいていく。
もしかしたら眠っていたかもしれない。頬に何かの感触がして、意識が戻された。
瞼はやけに重く感じ、目は薄く閉じた状態でやっと。このまま、まだ眠っていてもいいとすら思えた。
しかし、さすがにそうはいかず瞼を開けてみることにした。うっすらと、ぼやけて視界に映る。
そこにあるのは、男の子の綺麗な顔。頬に触れて、私の顔を眺めていた。
真っ先に羞恥が強くなり、脚をばたばたさせたり、首を横に思い切り振った。
さすがに、犯人は驚いてこちらを見ている。そうともかかわらず、男性からのボディタッチに慣れていない私は、心臓の高鳴りを催していた。至近距離なら尚そうなる。
「ななな何するのーーーっ!」
頭はパニック状態でつい距離をつくろうとしてしまう。そうするものの、意味のない努力だった。
そして、この一言が初めて犯人と口を聞いた台詞だと思うと、自分は何て間抜けなのだろうと思えてくる。
そうともかかわらず、私の口は勝手に動き続ける。
「どうしてこんなことするの!?私何かした?というか何が目的なの!?一体何がしたいの!?」
私は必死だった。そのくせ、平常心が欠けられている上に呂律がよく回らなかった。