猫-4
「あれ・・・?」
声がした。女の声が。なぜか俺の鼓動が早まる。
「あんたは昼間の。」
「あー、どういたしまして。」
何か勘違いしているような気もするが、会ったことは覚えているようだ。
「猫ちゃん、好きなんですか?」
理恵は今は猫を抱えていない。家で飼っているんだろう。いい身分だこと。
どうも話をしようとするとイラつく。俺は思わず言った。
「あぁ、お前みたいな子猫ちゃんが好きだよ。」
わざとらしい笑みで、わざとらしい声で言ってやった。
「ふざけてるんですか。」
昼間とは打って変わって、まっとうな反応を交わしてきた。良く分からない女だ。
「ふざけてないさ。お前が好きだって言ったんだ。」
動機が早まる。こんなやりとりを俺はどれだけやってきたことか。
声が震えてしまっていただろうかなど余計な心配ばかりよぎる。
だが、今更恥ずかしいなんて、そんなことはない。
「・・・。」
また顔が赤くなった。
少しうつむいてはいたが顔は見えた。
街灯に照らされて、夜のせいか艶っぽさすら見えた。
「あんた男を知らないだろ。」
「知ってますっ。私だって経験ありますから。」
ややふてくされたように言った。どうせ数えるほどだろう。
「一体何人と寝たんだ?」
「・・・それはっ・・・その・・・」
意味は伝わったらしい。経験はあるのだろう。
何のことかを理解し、一瞬でその"経験"を思い出しているのだろう。
このやり取りで、俺は少しわかってきた。俺がこの女を気になった理由が。
理恵は顔を真っ赤にし、言うか言うまいかで葛藤していた。見た目分かりやすい。
俺はそれを見てベンチを立ち上がり、理恵に近づいた。
「え・・・?」
近づいた時、理恵の顔が目の前に来た。
いい匂いがしたと同時に妙な匂いもした。
二重の瞳が街灯の反射でうるんで見える。
瞳を覗き込んで数秒、俺は一気に理恵の唇を奪った。
「・・・んっ・・・!」
俺は理恵の肩を手でつかみ引き寄せ、強引に口づけた。
上唇を吸い、唇表面を舐める。
そのまま舌を理恵の口中へと侵入させる。
チュパッ
音をさせる。唾液が混ざり合って、理恵の唾液を俺は飲んだ。女の味がする。
生ぬるく、あまじょっぱい。
俺が舌を絡ませると、理恵も付いて来た。
驚きつつも、舌を絡ませ、こすりつける。
口の中で、ジョリジョリと音がする。
舌のざらつきが分かった。
「・・・ん、はぁっ・・・」
息継ぎをし、見つめあい、キスを再開する。
抵抗しないのか・・・?
不思議に思ったが、再びきつく舌を絡めあった。
やがて俺は目を閉じて、理恵の唇を味わった。