里美 第８話-13
あっという間に旅行の日が来た。
里美はもう4~5日前からこの日が来るのが嫌で嫌で鬱な日々を送っていた。
（来ちゃったもんは仕方ないもんね。。。とにかく頑張るしかないよね…）
里美とは違い朝から機嫌のいい夫を、ため息まじりで横目で見ながら思った。
迎えにいくと、満面笑顔の義母と両手に荷物を持たされてよろけて義父が玄関から出てきた。
ワンボックスの狭い車内の中に義母のきつい香水の匂いがぶわっと広がる。
（お義父さんだけが頼りだし、救いよね。。。）
これから数時間この地獄の様な環境の中でガマンし、宿へ着いたら着いたで二泊三日共に過ごさなくてはならない。
小学生のバス遠足でもここまでじゃないだろうというくらいに、おやつやジュース、わけのわからない匂いが充満している車からやっと解放され、宿に着いた時はもう夕暮れだった。
相変わらずはしゃいでいる義母は夫と腕を組むと意気揚々と宿の玄関へと入っていった。
「わしらは、邪魔みたいだね。里美さん」
その姿をあきれた笑顔で眺めながら、荷物を持たされた里美と義父がとぼとぼとついていく。
老舗の旅館は外見は昔の面影を残しつつ、部屋は居心地のいい環境が整っていて快適だった。
着いて早々、気疲れと遠出の疲れを癒そうと行った温泉は内風呂も川岸の露天風呂も最高だった。
その日は、全員疲れてたのか食事が済むとてんでに温泉入ったりテレビを見たりしているうちに
次の日はぶどう狩りや、名所旧跡などを巡り、それはそれで里美も結構楽しかった。
その夜、よせばいいのに義母と夫はそんなに強くもないのに、また酒を呑み出した。
里美は口を付ける程度に付き合って、夜の露天を楽しみに出て行った。
小一時間ほど経って帰ってみると、案の定義母と夫は準備された布団にもう横になってウトウトしている時だった。
里美と入れ替わりに今度は義父が風呂へと出て行った。
そうしている間にも義母と夫が軽いいびきをかきだした、昨日も義父と義母、夫の三人のいびきがすごくて里美はなかなか寝付けなかった。
（今夜もすごいんだろうなぁ…）
昨夜の事を考えて、二人の寝顔を見ながら里美はため息をついた。
いびきがひどくならないうちに寝付こうとしている時に義父も帰ってきて床に入った。
里美の隣が夫、その隣が義母、そして義父の順だった。
里美が寝付く前に、早くも三人のいびきが合唱したり輪唱したり。。。
なんとか寝付こうと思えば思う程、気になって眠れなくなってしまう。
隣の布団の夫の肩を揺すって起こそうとしても、疲れとアルコールで爆睡してしまっている。
寝返りをしてみたり、いびきから逃れようと布団をかぶってみたりすればするほど、目が冴えてしまう。
（だめだぁ…なんなのよ。。この三人は）
間接照明の明かりの中で三人とも布団もはだけ、思い思いの寝姿で騒音に近いいびきをかいている。
（しょうがないなぁ。。もう一回お風呂入って来ようかな）
里美は諦めて、布団から出ると立ち上がった。