ルームメイト-2
掃除が行き届いた部屋、せっけんの香り、ピンクのタオルにぬいぐるみ…
俺の目の前には、女が立っていた。
「あっ、あっ、すんません!!」
慌てて外に出て部屋番号を見た。
書いているのは「4」…間違いない。
あのババァが間違えやがったな、と文句を言いにいこうとした時、ガチャと戸が開き、さっきの女が顔を出した。
「説明するからっ…部屋入って!」
腕を引っ張られ部屋に入り、女はガチャンと鍵を閉めた。
全っっっ然意味わかんないんでスけど・・・・・
目の前でバツ悪そうな表情を浮かべるこの女は、身長155cm程で、髪型はショートボブといった感じだ。
小柄なので、どこからどう見ても女に間違いない。
ぽかーんとしていると、女が話し出した。
「私、今までずっと女学院で育ってきて、外のこと何も知らないで生きてきたの。家もすごく厳しいから、こういうとこ出入りするのは絶対だめだし。でも私はずっとこんな寮に憧れてて、狭くても辛くてもみんなで協力し合うような世界に入りたかった!たまたま拾った求人広告でここを知って、卒業と同時に親の反対振り切って出てきちゃったの…だからお願い!周りには私が女だってこと言わないで!ちゃんと男として生活するし、迷惑かけないから!」
…?!
ちょっ…ちょっと待て。
俺も急な展開ばっかで頭の切り替えができん。
とにかく分かるのは、この女は相当なお嬢様らしいこと。
そんで世間知らずのくせに家を飛び出した…と。
俺ははぁ〜とため息をつくと、女を説得し始めた。
「あのさ、そもそも何でアンタが女だってことバレずに済んだの?」
「私の名前、花澤晶っていうの。アキラって男の子みたいでしょ」
おばちゃんの言ってたことは正解だった。
「履歴書とか面接とかどうしたんだよ」
「一個下の弟でカムフラージュしたの。弟は協力してくれるから」
「でも鍵受け取る時、おばちゃんにバレるだろ」
「一生懸命変装したの。声も低くしたりしたもん」
「お前…女学院とかってお嬢だろ?何でお嬢がそこまでして選んだ道が、しかもこんなむさ苦しいとこなんだよ?」
「たまたま拾った広告に、板前見習い下宿付きって書いてあったから…」
それだけかよ!
思わず三村似のツッコミを入れたくなる。
「だからってここはやめとけ。バレるのも時間の問題だし」
「やだ!私ここにいるって決めたの!」
「お前よく考えろよ!親の反対振り切ってきたって、ここの場所探されるぞ!」
「『東京の寮に入る』ってしか言ってないもん!」
…それだけで反対されて、挙句の果てにこのボロ下宿かよ。
こいつの親なら捜索願い出し兼ねない…と、俺はゾッとした。
「大事にされてるんじゃねーか。そういう親の元離れて、窓に鍵もないようなとこ来たらヤバイだろ。それにお前、俺が最初入ってきた時、玄関の鍵かけてなかったろ!無用心すぎんだよ。お前一人の部屋なら関係ねーけど、ここは俺の部屋でもあるんだから、そういう無用心なやつと一緒には暮らしたくねーよ。しかも洗濯物とかどうすんだよ?おばちゃんがいるとこに洗濯機があったし、女もんの下着なんかどこに干すんだよ?今までは家のお手伝いさんとかがやってくれたことも、全部自分でやるんだぞここは!そーいうこともちゃんと考えて…」
ここまで言って女をチラッと見た。
―――――あーやべぇ。
…泣かせてしまった。
女があまりにも世間知らずで素っ頓狂なことばかり言うから、俺もアツくなっちまったじゃねーか。
女は下唇を噛み締め、涙をボロボロ流していた。
でも俺が言ってることは間違いねーぞ!
女が勝手すぎんだよ、俺を巻き込みやがってよー。
このまま一緒に暮らしたら、バレた時俺が捕まりそうだしよー。
でも………でも………。
決心して別世界に飛び込んできた勇気は認めてやるか…。
俺は女の頭をポンポン、と優しく撫で、顔を覗き込んだ。
「毎日の戸締りに火の用心、ちゃんと出来るか?」
「…私っ…頑張るからっ…ひくっ…」
「男の世界は厳しいし、腹が痛ぇだの寒いだの暑いだの言ってらんねーぞ」
「えくっ…ひくっ…うん、頑張る…」
俺はふぅ〜…と、深呼吸をした。
「よし!俺とお前の秘密だぞ!何があっても男のふりすんだぞ!」
途端に女がパッと顔を上げた。
「…ほんと!?ありがとう!嬉しい!」
そう言うと女は俺に抱きついてきた。
いやぁ〜…
いやいやいやいやヤバイ、こーゆーのはほんとマジで…。
俺は健全な18歳だぞ。
しかもよく考えてみりゃこんなシチュエーション、願ったり叶ったりだろ。
女とこれから毎日暮らすなんて…しかもよく見りゃ顔可愛いし…。
いやいや!だめだ、こいつとは男同士として暮らすんだから。